『ミッドサマー』のヒットで日本の観客にも存在がインプットされ、そのまま『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』のエイミー役、そしてマーベル映画の新フェーズとなる大作『ブラック・ウィドウ』でスカーレット・ヨハンソンと共演へ。そう、2020年はフローレンス・ピューのビッグ・イヤーとなるはずだったのです。それがいま、公開延期のため中断しているのがとっても残念。ハリウッドではまさに階段を駆け上る24歳、イギリス出身のニュー・スターです。
彼女のチャームをもっと知りたい方には、もうすぐDVDがリリースされる『ファイティング・ファミリー』(2019)がおすすめ。ここではなんと、プロレスラー役! 演技の振り幅にびっくりしますが、それでも滲みだすフローレンスらしさがいい。タフなのに繊細で、内面の強さがあるんですよね。物語ではイギリスのプロレス一家で育った女の子が、WWEで夢をかなえるまでが描かれます。
WWEのレスラー、ペイジのドキュメンタリーを見たザ・ロックことドウェイン・ジョンソンがプロデューサーを買ってでた本作。彼は本人役で出演もしています。フローレンスはというと、レスリングの肉体的な役作りだけでなく、リングでのキャラを打ち出す難しさ、同じ夢を追いかける兄との葛藤など、心の成長も細やかに演じていて共感できる。兄役のジャック・ロウデンや母役のレナ・へディなど、イギリスの時代物でよく見かける顔がレスラー一家を演じているのも意外。プロレスを全然知らない私でも見どころはいっぱい。音楽にはブラーのグレアム・コクソンも参加しています。
世界的にみんなが家にこもっている間、フローレンス・ピューはインスタグラムで料理映像をアップしています。次々野菜を切ったり、炒めたり。「不安で落ち込んでたんだけど、見かねた父が『そういうときは料理だ!』って言ったの」と動機を語っていました。「何かせずにいられない」という気持ちが伝わってきて、好感。いま、どんなメッセージを発するかが問われるセレブのなかでも誠実さが伝わってきます。『ブラック・ウィドウ』で帰ってくるときには、さらに注目度が高まっているのは間違いなし!
『ファイティング・ファミリー』
監督・脚本/スティーヴン・マーチャント
出演/フローレンス・ピュー、レナ・ヘディ、ジャック・ロウデン
本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。