観たあとはすっと清々しく、未来が開ける気持ちになる。そんないまの青春映画が、『ハーフ・オブ・イット』です。憧れの女子に手紙を書いてほしい、と、高校のアメフト男子が知的な女子に頼むことから始まる三角関係――とプロットを書くと、すぐいくつかの映画が思い出されるはず。でも、プラトンの愛の起源を引用する導入から(まるで『ヘドウィグ・アンド・アングリー・インチ』!)、とても新鮮で、とても優しいティーン・ムービーが始まります。Netflixで配信されてから世界で反響を呼び、さまざまな視聴層に届いている一作。まさに2020年を象徴するニュー・クラシックになりそうです。
中国系アメリカ人のエリー(リア・ルイス)は頭はいいけれど孤独で、レポート代筆で家計を助けたりもしている女の子。その文才を見込んで、ポール(ダニエル・ディーマー)は美しいアスター(アレクシス・レミール)へのラブレターを書いてほしいと頼みます。でも、エリーが好きなのもアスター。三人の気持ちは複雑にこんがらがりながら、やがて「恋の終わり」ではなく、「何かが始まる予感」へ向かっていく。報われない思いが、友情や自立を育てていくのです。恋愛だって、ゲットするものじゃないんですよね。カズオ・イシグロなどの文学や映画、アートが物語に編みこまれ、多様性と知性がその土台になっているのも素晴らしい。
これにはアリス・ウー監督と男性の友人との間に起きたことが反映されているそうです。「私がレズビアンだとカミングアウトしてから初めて失恋のような経験をした相手は、女の子ではなく男の子だった」と。大人になった監督が、それについて考えてきたことを高校生に当てはめて描いたとか。ワシントン州で暮らす彼女たちの日常のディテールも素敵。自転車、落書きアート、タコス・ソーセージ。エリーが愛飲するヤクルトは『好きだった君へのラブレター』にも出てくるし、アメリカに住むアジア系ティーンの必需品? 家で古いモノクロ映画ばかり見ているエリーの父を演じるのは、なんとアクション俳優のコリン・チョウです。彼が着ているトゥイーティーTシャツにチェック柄ローブもめちゃ好み。細かいところまで何度も見たくなること、間違いなしです。
『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』
監督・脚本/アリス・ウー
出演/リア・ルイス、ダニエル・ディーマー、アレクシス・レミール
Netflixにて配信中
本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。