4月に海外で放映・配信された際に、「最高!」という興奮がネットから伝わってきたのが、ドラマ『ふつうの人々』。しかもセックス・シーンの親密さが特に話題になっていて、ずっと見たかったのです。それがやっと、日本ではApple TVのチャンネル、STARZPLAYで配信されました。原作はサリー・ルーニーの小説『ノーマル・ピープル』。アイルランドの高校生、マリアンとコネルの恋愛と友情が描かれます。この二人は最初から知的なレベルでも、感情的にも、そして性的にも惹かれあっている。そのセックスを重点的に扱うことで、「離れてもまた引き寄せあってしまう」関係に説得力があるのです。しかもそこにはありがちな綺麗でカッコいい「セクシー」ではなく、ぎごちない動き、ちょっとした言葉、リアルな表情……とにかく自然で親密な「セクシー」が溢れている。
ただそんな二人でも、初めての恋ではやっぱり間違えてしまう。周囲の目を気にしたり、家族に経済的な格差があったり……とラブストーリーならではの障害が出てくるのですが、それが二人の気持ちにどう影響しているか、その描写が細やかなのです。若いと、そういった些細なことで自己肯定感が揺らいでしまうんですよね。その脆さ、自信のなさが二人をすれ違わせてしまう。見ていてもどかしいけれど、同時にすごくよくわかります。
4話目からの大学時代ではメンタル・ヘルスの問題にも踏み込んでいきます。私が好きなのは、コネルがよく泣くところ。悩み、傷つくたび、彼は感情を表に出すことで成長していくように見えます。マリアンもようやく家族の問題を彼に話せるようになる。このへんはとても現代的。現代的といえば、セックス・シーンではマリアンだけでなく、むしろコネルの全裸が頻繁に映ります。新しい常識でセックスを撮ろうとしている。海外の記事では安全に、丁寧にセックス・シーンを撮影するための「インティマシー・コーディネーター」を雇った重要性も強調されていました。新鮮なエロティシズムはそんなところからも生まれている。
それにしても、初恋ってこんなにも人生において大きくて、影響があるんですね。マリアンとコネルの場合、最終的に二人が結びつくかつかないかより、いろんな経験を通じて「一緒に大人になっていく」ことが感動的。これから何があってもその確かさはずっと二人のなかに残っていくだろうな、と実感するのです。主演のデイジー・エドガー・ジョーンズ、ポール・メスカルは本作でたちまち注目の俳優に。若い人にも、大人にも見てほしい恋愛ドラマです。
『ふつうの人々』
監督/レニー・アブラハムソン、ヘッティ・マクドナルド
脚本/サリー・ルーニー、アリス・バーチ、マーク・オロウ
出演/デイジー・エドガー・ジョーンズ、ポール・メスカル
STARZPLAYにて独占配信中
本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。