『ストレンジャー・シングス』のミリー・ボビー・ブラウンが主演、時代物に挑戦する『エノーラ・ホームズの事件簿』。シャーロック・ホームズに妹がいた!――という設定のヤングアダルト小説が原作です。監督はドラマ『フリーバッグ』を演出したハリー・ブラッドビア。確かに、エノーラがカメラ目線で語りかけてくるところを含め、『フリーバッグ』に似ている。コメディ調ながら、「女性が一人生きていくこと」がテーマになっているところも同じです。
それまでずっと母と二人で暮らし、歴史・科学・武闘など英才教育を受けてきたエノーラ。二人の兄、マイクロフトとシャーロックは早くに家を出たきりなので、よく知りません。そんな時、母が突然いなくなる。マイクロフトはエノーラを「普通の女の子」にするため、寄宿制の花嫁学校に入れようとします。気質が似ているシャーロックさえ、それを止めてくれない。でもそんな生活は到底受け入れられないエノーラは、母を探しにロンドンに向かいます。
母を追ううち、別の事件に巻き込まれるエノーラ。その謎解きは、やがて人生最大の謎――自分は何者なのか?――に繋がっていきます。というのも、同じくらい才能と行動力があっても、エノーラはシャーロックのような「変人」にも「天才」にもなれない。女性は規格外であることを許されないのです。19世紀イギリスのサフラジェット=女性参政権の動きを背景に、一人の少女の自立のストーリーが展開します。
印象的なのはミリー・ボビー・ブラウンの懸命な表情。心の中で起きていることをそこで映し出せるのは、やっぱり名優です。母役のヘレナ・ボナム・カーター、シャーロック役のヘンリー・カヴィルにも負けない存在感。ドレス姿も素敵なのですが、男装した時が抜群に可愛く、ミリーの相手役、ルイス・パートリッジは可憐でアンドロジナス(しかも花好き)。ここも確信的に、男女の役割を曖昧にするキャスティングになっています。
『エノーラ・ホームズの事件簿』
監督/ハリー・ブラッドビア
出演/ミリー・ボビー・ブラウン、ヘンリー・カヴィル、サム・クラフリン、ヘレナ・ボナム・カーター
9月23日、Netflixにて独占配信開始
本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。