11月の大統領選のタイミングをはかって、劇場公開から配信も始まった『シカゴ7裁判』。脚本家アーロン・ソーキンが監督も手がけた一作です。描かれるのは1968年、シカゴでデモが警察と衝突し、何百人も負傷者が出た際、それを率いたいくつかの団体のリーダーが「暴動を扇動した」とされた裁判。有名な出来事なので知ってはいたのですが、私の知識はリーダーの一人、トム・ヘイデン(演じるのはエディ・レッドメイン)がジェーン・フォンダの二番目の夫だとか、デモの集会ではMC5が8時間演奏したとか、どうしてもポップカルチャー寄り。なので事件と裁判について、断片が一気にダイナミックな流れになる面白さがありました。
それだけでなく、さすがソーキン、その流れがスピーディでスリリング。ケレン味たっぷりに展開し、キャラも濃いので、「作りすぎ」という海外評も見かけました。たとえば、ジョセフ・ゴードン・レヴィットが演じる検事は実際あんなナイスガイじゃなかったとか。でも知らない人にはこれくらいのほうが、いかに歴史的な出来事だったかがわかります。アメリカでニクソン政権と現政権が比較されるわけも、ブラックパンサーの指導者、ボビー・シールの扱いがBLMに通じることもはっきり伝わってくる。
元々はスピルバーグが監督するはずだった脚本。スピルバーグはほとんど無名のキャストを考えていたと言われます。そのほうがリアルだったかもしれないけれど、この豪華キャストはやっぱり見どころ満載。エディ・レッドメインのカッコよさもさることながら、異様な存在感を放つのはアナキスト、アビー・ホフマンを演じるサシャ・バロン・コーエンです。『ボラット』(2006)など、キャラになりきって現実に突撃するトンデモ映画で知られるコメディアンですが、他の監督の映画に出るといつも破格。ただ彼も大統領選直前に、いまのアメリカに迫るキョーレツな自作『ボラット2』の公開をぶつけてきました。予告編だけでも口あんぐり。興味のある方は検索してみてください。
『シカゴ7裁判』
脚本・監督/アラン・ソーキン
出演/エディ・レッドメイン、サシャ・バロン・コーエン、ジョセフ・ゴードン・レヴィット、マイケル・キートンほか
Netflixにて独占配信中
本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。