恋と音楽と人生と。それぞれの黒人女性の物語

『シルヴィ~恋のメロディ~』
『シルヴィ~恋のメロディ~』

このところ配信で次々に見た、黒人女性が主人公の映画三本。これがストーリーも演技もそれぞれにユニークでセクシーで、強く印象に残っています。しかもその時代の音楽――ブルース、ジャズ、ヒップホップ――が人生と溶け合っている。2021年もブラックムービーに勢いがありそうです。

まずはテッサ・トンプソンとンナムディ・アサマア主演の『シルヴィ~恋のメロディ~』。クラシックで美しい、大人のメロドラマです。1957年夏、ニューヨークで知り合ったシルヴィとロバート。父親のレコード店で働く彼女と、サックスプレイヤーの彼はたちまち恋に落ちる。けれどシルヴィには婚約者がいて、ロバートはツアーでパリに行くことに。別れてもまた惹かれあう二人の年月がゆっくり描かれ、ひと夏の恋は大きな愛に変わっていきます。店やクラブ、コンサートホールで流れるジャズ、お洒落な二人が着る50~60sのドレスやスーツ。シルヴィはテレビ業界で働く夢を持っている女性で、テッサの強く自由なイメージにぴったり。当時の恋愛映画の様式でありながら、その頃では映画にされなかった黒人たちの物語は、批評性を持ったロマンスです。

一方、『マ・レイニーのブラックボトム』の主演はヴィオラ・デイヴィスとチャドウィック・ボーズマン。これがチャドウィックの遺作となります。彼の見せ場もたっぷり用意されていますが、やはりヴィオラ演じる実在のブルース・シンガー、マ・レイニーの存在感がすごい。1920年代にブルースの母(マ)と呼ばれた彼女は南部をツアーしながら、シカゴのレコーディング・スタジオで曲を録音します。その歌の迫力、ディーバな振る舞い、傲慢さの裏の苦しみ。蒸し暑いスタジオで彼女がコーラを一気飲みすると、みんな息を呑んでそれを見つめるのです! 「白人は私の声は欲しがるが、私は欲しがらない」という彼女のセリフは、現在にも繋がっています。

『40歳の解釈:ラダの場合』は、その現在が舞台。ブラックのアーティストがもてはやされるジレンマを軽やかなコメディにしています。監督・脚本・主演はラダ・ブランク。40歳直前にして落ち目の劇作家ラダは、彼女自身のフィクショナルなバージョンです。高校生に演劇を教えたりはしているものの、中年の鬱屈は溜まるばかり。ラダはその本音をラップにぶつけて突破口にしようとする。同時に自分の戯曲が白人プロデューサーの手でブロードウェイの舞台になろうとしていて……。笑い満載、でも怒りと気概もこもった一作。三本とも、ずっしりとした重みが底にあります。


『シルヴィ~恋のメロディ~』
監督/ユージン・アッシュ
出演/テッサ・トンプソン、ンナムディ・アサマア
Amazon Prime Videoにて独占配信中


『マ・レイニーのブラックボトム』
監督/ジョージ・C・ウルフ
出演/ヴィオラ・デイヴィス、チャドウィック・ボーズマン
Netflixにて独占配信中


『40歳の解釈:ラダの場合』
監督・脚本・出演/ラダ・ブランク
出演/ピーター・キム、オズウィン・ベンジャミン、イマニ・ルイス
Netflixにて独占配信中

映画ライター 萩原麻理プロフィール画像
映画ライター 萩原麻理

本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。

 

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