ラジオでレイフ・ファインズのインタビューを聞いてから、観たいと思っていた『時の面影』。イギリス、サフォーク州で戦前、中世の墓が発掘された実話が基になっています。レイフ・ファインズ自身もサフォーク州生まれで、主人公バジル・ブラウンを演じるのをとても楽しんだとか。バジルは独学で考古学を学び、サフォークの地質や歴史に通じた男。その彼が裕福な未亡人、イーディス・プリティに雇われて彼女の土地を掘りはじめるところから映画は始まります。
イーディスを演じるのは、ますます凛とした存在感を増すキャリー・マリガン。イーディスも幼い頃から考古学に興味があり、バジルとイーディスは階級や立場を超えて心を通わせるようになります。二人は時間の流れに魅せられていて、この事業を通じてさらに過去を知り、自分の人生以上のものに思いを馳せるようになる。けれど皮肉なことに、イギリスは第二次世界大戦前夜。誰もが皆限られた時間を意識し、懸念を抱えています。それがストーリーを静かに動かしながら、延々と掘る場面が続く。何しろ、原題は「The Dig」。その地道な作業の先に、新たな発見が待っています。
感情の軸となるのは、バジルとイーディスの間に生まれる信頼、敬意、友情。レイフ・ファインズはインタビューで、「恋愛やロマンスによって曇らない」感情だと言っていました。そこがいい。そう考えると、リリー・ジェームズ演じる考古学者の恋というサブプロットはちょっと余計な気もします。ただ映像はもっと雄弁に、もっと大きなものを見せてくれる。サフォーク州の平原の上の空の大きさ、部屋に差し込む光の美しさ、冷たい雨や風、地面の匂い。自粛生活のせいで最近狭苦しさや焦りを感じていた私にとっては、どこか落ち着きと解放感も与えてくれる映画でした。
『時の面影』
監督/サイモン・ストーン
脚本/モイラ・バフィーニ
出演/レイフ・ファインズ、キャリー・マリガン、リリー・ジェームズ
Netflixにて独占配信中
本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。