ああ、夏休みってこんな感じだったかも――と、草いきれやスイカの甘さ、大泣きしたあとのじーんとしびれる感覚までよみがえってくるような韓国映画、『夏時間』。退屈なようで、小さな出来事が重なっていく時間。良質なノスタルジーは甘酸っぱいというより、子ども時代の苦さまで掘り起こしてきます。でも、だからこそ引き込まれる。キム・ボラによるヒット作『はちどり』(2018)と同じく、これも女性監督ユン・ダンビのデビュー作となります。
夏の間、祖父の家で暮らすことになったオクジュ(チェ・ジョンウン)とドンジュ(パク・スンジュン)の姉弟。どうやら母は家を出て、父にも事情がありそう。そこへ夫ともめている父の妹も転がり込んできます。そこに集まった家族の団欒が描かれながら、だんだん男女によって立場が違うことや、大人がうやむやにしている問題も浮かび上がってきます。反発しても、子どもには何も変えられない。ただ家族として共有した時間は確かにあって、それが全員の心に残っていきます。
映画を見ていてときどき、普段は話さないこと、話せないことを誰かと話せた気になることがあります。『夏時間』もそんな映画。昔、自分はああいうことが悲しかったんだな……と、オクジュを通じて確かめるような。ユン・ダンビ監督の「映画を作るときはいつも、作品が観る人の友になってほしいと願っています」という発言もそれを裏づけます。私が2020年の個人ベストに『はちどり』を挙げたのも、それがあったから。韓国の映画やドラマのレベルの高さはもう世界的に知られていますが、次々と女性監督を輩出しているのが本当に頼もしい。彼女たちの映画は全部見たい! と思っています。
『夏時間』
監督・脚本/ユン・ダンビ
出演/チェ・ジョンウン、パク・スンジュン、ヤン・フンジュ、パク・ヒョニョン
2021年2月27日、ユーロスペースにてロードショー全国順次公開
本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。