オスカー授賞式前に絶対見ておきたい、二本の短編映画

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日本時間で26日に開かれる、今年のオスカー授賞式。話題作は多々あれど、いまNetflixで見てほしいのが『ラターシャに捧ぐ』と『隔たる世界の2人』、二本の短編です。前者は短編ドキュメンタリー映画部門、後者は短編実写映画部門にノミネートされていて、どちらもアメリカの人種差別を扱っている。そのアプローチはまったく違っていて、でもそれぞれに鋭く突き刺さってきます。

『ラターシャに捧ぐ』は1991年のロサンゼルス暴動のきっかけにもなった、15歳の少女ラターシャ・ハーリンズが店で殺された事件を追ったもの。とはいえ事件を振り返るというより、ラターシャがどんな女の子だったのかが家族や親友の言葉で語られ、詩的な映像で綴られます。その19分の間に立ち上がってくるのは事件の被害者ではなく、彼女がどう育ってどんな夢を持っていたのか、社会をどう見ていたのか――ひとりの女性の姿。彼女が死んだことで、周りの女性たちの人生が変わってしまったことも伝わってくる。意図を持ってセンセーショナルに描かれる人物像ではなく、ラターシャがどんな女性になろうとしていたのか、その未来を予感させる作品だからこそ、深い悲しみが残ります。

もう一つの『隔たる世界の2人』は、もっとポップでコミカル。なにせ形式としては、根強い人気を持つタイムループものです。何度死んでも、人生のある時点に戻ってしまう――という繰り返しは、ロマンティック・コメディにも、哲学的なドラマにもなる。けれど、それを本作は昨年のジョージ・フロイドの死をはじめ、「黒人が警官に殺される」ことのメタファーにしているのです。主人公は毎回違う行動をしようとして、どうしても同じ結果に至ってしまう。それによって「何が引き金を引くのか」が浮かんでくる構成が見事です。そしてクレジットロールでは、実際に暴力にさらされ、亡くなった人々の名前が延々と流される。

BLMのプロテストでは「彼女の/彼の名前を言え」というスローガンが繰り返されますが、それは犠牲者を大勢のうちの一人、名前も顔もない犠牲者にするな、という抗議の声。一人ひとりに失われた人生があり、周りの人々もずっとそれを抱えて生きている。その大きな怒りと悲しみがこの二本を動かしています。

『ラターシャに捧ぐ ~記憶で綴る15年の生涯~』
監督/ソフィア・ナーリ・アリソン
Netflixにて独占配信中

『隔たる世界の2人』
監督/トレイボン・フリー、マーティン・デズモンド・ロー
出演/ジョーイ・バッドアス、アンドリュー・ハワード
Netflixにて独占配信中

映画ライター 萩原麻理プロフィール画像
映画ライター 萩原麻理

本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。

 

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