日本ではまだあまり一般的ではない養子縁組制度。Apple TVとBBCが製作するドラマ『Trying』は、ロンドンの普通のカップルが養子を迎えるまでの、長く困難なプロセスをコメディタッチで描いています。うまいと思うのは、二人の暮らしをごく庶民的な設定にしているところ。ニッキー(エスター・スミス)とジェイソン(レイフ・スポール)はカムデンの貸家に住み、結婚はせずに妊活中。それぞれレンタカー会社のコールセンターと移民向けの語学学校で働いています。二人の稼ぎで家賃が高騰するロンドンに住むのは、相当カツカツなんじゃないかと想像しますが、その余裕のなさが物語のリアリティとなっている。
妊娠をあきらめざるをえなくなったニッキーは傷つきながらも、養子縁組を目指し、ジェイソンとともに頑張りはじめます。同時に、二人の親友夫婦や家族との関係も描かれる。親友が育児で疲れ切っていたり、親が「養子」に批判的だったり、それぞれ不満を抱えているのもリアル。でもこのドラマには、どんなに問題がある人に対しても、クスッと笑いながらハグするような姿勢がある。だってパーフェクトな人間なんていないし、この社会で子どもを育てるにはサポートシステムを築くことが重要。育児の大変さ、だからこそ周りに人々がいることの大切さが、笑いとともに実感できるのです。
二人の一番の味方はソーシャルワーカーの女性。彼女をイメルダ・スタウントンが演じているのが心強いかぎりです。「親」として他人に認められようと奮闘するうち、ニッキーとジェイソンが自然と大人になっていく過程は、見ていてちょっと元気をもらえる。カムデンの街並みや日常生活のディテールも楽しいアクセントになっています。シリアスなドラマが多いなか、こういうのも必要では? もうすぐ始まるシーズン2では、いよいよ養子となる子どもが登場するのか、それとも二人の苦労はまだまだ続くのか。最初のエピソードを心待ちにしています。
『Trying ~親になるステップ~』
クリエイター/アンディ・ウォルトン
出演/エスター・スミス、レイフ・スポール、イメルダ・スタウントン
Apple TVにて独占配信中、シーズン2は5月14日配信開始
本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。