まるでドラッグのように依存的なセックス。フランス映画『シンプルな情熱』

©2019L.FP.LesFilmsPelléas–Auvergne-Rhône-AlpesCinéma-Versusproduction
©2019L.FP.LesFilmsPelléas–Auvergne-Rhône-AlpesCinéma-Versusproduction  ©Julien Roche

昨年、恋愛ドラマ『ふつうの人々』について書いたときに、「インティマシー・コーディネーター」という職業を紹介しました。アクション・コーディネーターが映画のアクションに関して安全を確保し、どういう動きにするか決めていく役目を負うのと同じで、インティマシー・コーディネーターはセックス・シーンや裸を見せるシーンを担当します。まず身体的にも心理的にもヴァルネラブルになっている俳優たちの安全を確保し、シーンの組み立てに関わる仕事。『ふつうの人々』のインティマシー・コーディネーター、イタ・オブライエンはその後BAFTA受賞作『I May Destroy You』でも注目され、第一人者とされました。その他、Netflixの大人気シリーズ『ブリジャートン家』でもインティマシー・コーディネーターの存在がクローズアップ。従来より親密で、自然なセックス・シーンが出てきた――そんなここ最近の流れの象徴になった気がします。

フランス映画『シンプルな情熱』にも、官能的なシーンが満載。ただ前述の英米の映画やドラマとはまた違う、フランス映画らしい性描写が続きます。パリの大学で文学を教えるエレーヌ(レティシア・ドッシュ)は、年下の既婚者アレクサンドル(セルゲイ・ポルーニン)との情事に溺れ、彼と会っていない間は携帯が手離せなくなるほど。自立した大人の女性が、ただただ彼を待つ女になってしまうのです。そんな二人のセックスはどこか支配的で、依存的。ある意味ドラッグのような、自分ではどうにもならない感覚を捉えています。どこかダークで、行き場のないセックス。

『若い女』(2017)が印象的だったレティシア・ドッシュは、今回も恐れることなく、ひとりの女性の姿を直感的に演じています。ダンサーのセルゲイ・ポルーニンは、個人的にこれまで俳優としてはちょっと無機質な感じがしていたのですが、『シンプルな情熱』ではそれがミステリアスな男性像になっている。見ていて反発も感じながら引き込まれていく男女のポートレートです。


『シンプルな情熱』
監督/ダニエル・アービッド
出演/レティシア・ドッシュ、セルゲイ・ポルーニン
7月2日、Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー

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映画ライター 萩原麻理

本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。

 

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