いちばん恐ろしいことは家族のなかに。エモーショナルなホラー『レリック』

© 2019 Carver Films Pty Ltd and Screen Australia
© 2019 Carver Films Pty Ltd and Screen Australia

アンソニー・ホプキンスがオスカーを受賞した『ファーザー』(2020)では、認知症の人から見た周りの状況が描かれていました。ついさっきまで話していた相手や、自分がいた場所がいつのまにか変わってしまう不安、恐ろしさ。映画のトーンは違いますが、私はM・ナイト・シャマラン監督の『ヴィジット』(2015)も思い出しました。家族が認知症になることを、あの監督らしいショック・バリューとしてホラーに組み込んだ一作。『ヴィジット』は細部が案外リアルで怖いのですが、同時に過激で、ギャグっぽい部分もある。実際にそれを知る身としては、ちょっと「笑うに笑えないな」と思ったのを覚えています。

この夏公開される『レリック』も、同じく認知症をモチーフにしたホラー。ただこの映画からは恐怖や衝撃だけでなく、深い悲しみや愛情も伝わってくる。これが初監督作となるナタリー・エリカ・ジェームズは、自分の母の故郷である日本を久々に訪れたとき、祖母が認知症だった体験から本作を作ったとのこと。登場人物は祖母のエドナとその娘ケイ、孫のサム。エドナは失踪したあと、突然戻ってきたかと思うと、別人のように振る舞い始めます。ケイとサムは戸惑い、お互い意見が食い違う。そして秘密を抱えた古い家がゆっくりと三世代の女性たちを飲み込んでいくような描写は、介護が女性に重くのしかかることのメタファーにも思えます。

監督は、「エドナが別のものに落ちていく様子は、単なる死よりもずっと恐ろしいものがあることを示しています。それはまだ生きている人を失ってゆく悲しみです」と語っています。終盤がホラー映画にありがちなプロットとは違う展開になっているのも、誰も老いからは逃げられないから。同じオーストラリア映画『ババドック 暗闇の魔物』(2014)とも比べられている本作。あれは育児がモチーフでした。どちらも日常にある恐怖を女性監督が表現した、重層的でエモーショナルなホラーと言えそうです。

『レリックー遺物ー』
監督/ナタリー・エリカ・ジェームズ
出演/エミリー・モーティマー、ロビン・ネヴィン、ベラ・ヒースコート
8月13日、シネマート新宿ほか全国公開

映画ライター 萩原麻理プロフィール画像
映画ライター 萩原麻理

本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。

 

FEATURE