無数のキスシーンの向こう側へ。エッセイのような映画『ロマンティック・コメディ』

映画好き、ラブコメ好きの人に見てほしいドキュメンタリーがあります。いま配信中の『ロマンティック・コメディ』(2019)。これまで見たことがある映画、名場面が絶対一つは入っているはず! しかも監督や出演者はみんな声だけの出演で、友だちと好きなロマコメを見ながら話しているような気分になります。ただもちろん、それを出発点に、過去作を見ていると気になるところ、おかしなところについても語られる。女性の意識が変わったいま、「女性向けのコメディ」のはずだったものにむくむくと疑問が湧いてくるのです。そこが面白い。

監督のエリザベス・サンキーが10代の頃夢中だったロマンティック・コメディは、たぶん私より少しあとの時代のもの。メグ・ライアンがロマコメの女王で、ジュリア・ロバーツが『プリティ・ウーマン』(1990)でトップに躍りでたあとって、本当にハリウッドの主流がロマコメになったんですよね。ただそのなかで意外性を持たせるために、サンドラ・ブロックの主演作『あなたが寝てる間に…』(1995)のように、プロットが強引すぎたり、倫理的におかしかったりするものが出てくる。そんなふうに、現代のジェンダーやセクシュアリティの視点から批評が始まります。もっと鋭くハリウッドを批判していたNetflixのドキュメンタリー『トランスジェンダーとハリウッド』(2020)も思いだしました。

さらに明らかなのは、物語の結末がつねに「結婚」だったりするところ。このジャンル自体、白人の異性愛者、つまりヘテロセクシュアルの男女の話がほとんどで、それ以外は脇役を振られるのです。まるでキスを交わす男女のカップル以外は幸せにはなれないよ、とでも言うように。でも、本当にそうなんだろうか――ここからがエリザベス・サンキーのすごいところです。ロマコメの世界にはもっと広がりがあるのに、私たちがそれに気づいていないだけなのかも、と教えてくれるのですから。そう、人々がロマンティック・コメディを見るのは、「愛されたい」という普遍的な気持ちから。それを肯定してくれる、ハッピーで素敵な映画です。




『Romantic Comedy/ロマンティック・コメディ』
監督・脚本・編集:エリザベス・サンキー
出演/ジェシカ・バーデン、チャーリー・ライン、アン・T・ドナヒューほか
APARTMENT by Bunkamura LE CINÉMA にて限定配信中

映画ライター 萩原麻理プロフィール画像
映画ライター 萩原麻理

本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。

 

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