延期になっていた大作が公開され、プレミアが開かれたり世界のファンからの声が聞こえたりすると、2年ぶりのカルチャーの秋だな、と嬉しくなります。私自身、MCU『シャン・チー/テン・リングスの伝説』、Netflix『イカゲーム』、そして『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』と、世界的な盛り上がりとともに楽しむ実感が続いているこの1か月。特に007は三度の延期を経て、みんながダニエル・クレイグ版ジェームズ・ボンド最後の映画を待っていただけに、お祭り感がありますね。やっぱりこのシリーズは大きなスクリーンで大勢と観る、という選択一択だと思います。
個人的には脚本で参加したフィービー・ウォーラー・ブリッジが興味の一つ。彼女のカラーはどのへんに出てるかな~と考えながら観ていました。全体的に関わったそうですが、気がついたのは端々のセリフやキャラに滲みでるフィービーっぽさ。それがいいフックになっている気がします。挙げるとすると(ここからは映画について知りたくない人は飛ばしてください)、一つは当然、最初にQが出てくる場面。久々にボンドと顔を合わせるコミカルな気まずさ、感情がとっ散らかる感じ、あの日常感は彼女のドラマ『フリーバッグ』に通じる気がしますが、どうでしょうか。Qがせいろを使って料理をしているのは、演じるベン・ウィショーが『追憶と、踊りながら』(2014)でも菜箸を使う場面があったし、ベン本人のアイデアなのかな、とか(細かくてすみません)。
あとは、アナ・デ・アルマス演じるパロマ! 彼女ってこれまでにあんまりいないボンドガールだと思いました。美しく有能でセクシーでありながら、ボンドガールにありがちな謎めいた、幸薄そうなキャラじゃなく、きゃきゃっと笑って、ミッション完了時には「イエーイ!」とハイタッチしそうな雰囲気。『チャーリーズ・エンジェルズ』の一人でもおかしくなさそうな、もしくはフィービー・ウォーラー・ブリッジのスパイドラマ『キリング・イブ』に出てきそうな。そんな明るいキャラがアクションをがんがんこなすのです。
もう一人の女性エージェント、ラシャーナ・リンチ演じるノーミもそうですが、007シリーズで求められるタスクは全部こなしつつ、笑えたり、普段の姿が想像できたりする。ダニエル・クレイグのボンドも私は15年間、たっぷりとその人間味を楽しませてもらったので、「おつかれさま!」と肩を叩きたいような気持ちです(あのボンドなら許してくれそう)。
『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』
監督/キャリー・ジョージ・フクナガ
出演/ダニエル・クレイグ、ラミ・マレック、レア・セドゥ他
公開中
本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。