先日もオーストラリア映画『レリック』を紹介しましたが、女性監督によるホラーはなるべく漏らさずチェックしたいと思っています。どんなにファンタジックでも超自然的でも、ものすごく個人的な出来事や感覚が語られている気がするから。恐怖はもちろん、普段私も感じているような痛み、怒り、屈辱みたいなものがホラー的表現として噴出しているのです。もちろん怖いけれど、同時に共感を覚える――そんな映画に惹かれます。
2020年、イギリスで高く評価され、アメリカではA24が配給したのが『セイント・モード』。脚本と監督を務めたローズ・グラスの長編デビュー作です。主人公は見るからに痛々しい若い女性、モード(モーフィッド・クラーク)。彼女は通いの看護師として、がんを患う元振付家のアマンダ(ジェニファー・イーリー)の自宅での緩和ケアを始めます。信心深いカトリック教徒のモードは、奔放なところもあるアマンダの心身を救うことが自分の使命だと悟る。というのも、彼女には神が直接語りかけてくるのです。
孤独なモードは、明らかに人を救うことで自分も救われたがっています。そのひりひりした心の動きを追うだけで緊張してしまう。ただ、この映画はすべてが彼女の心理の反映だとは言わない。モードは本当に聖人なのかもしれないのです。ジャンヌ・ダルクのような宗教的表現が出てくることもあって、山岸涼子の漫画『レベレーション』をちょっと思い出しました。ジャンヌ・ダルクは映画の伝統においても重要なモチーフ。そこにイギリスの海辺の町の日常と、夢のような非日常が重なります。その映像がとにかく美しい。サイコホラーでありながら、見終わるとどこか浄化されたような気持ちにもなる、不思議な一作です。
『セイント・モード/狂信』
監督/ローズ・グラス
出演/モーフィッド・クラーク、ジェニファー・イーリー
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本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。