M:MARIUS
S:SPUR
S:マリウスさん、まずは大学卒業、おめでとうございます!
M:ありがとうございます! 卒論も無事にパスして、ほっとしました。8月には東京に行くんですけれど、今は休暇を楽しんでいるところで。先日は、姉のいるベルリンに遊びに行ってきました。
S:お姉さんはお仕事でドイツにいらっしゃるんですよね。
M:そうです。それで何度か遊びに行っています。ベルリンはドイツの首都ですけれど、冷戦時代を経て今すごくインパクトのある街になっているんです。今回はそんなベルリンのちょっとパンクで革命的でダークさのある、ファッションやカルチャーについてお話しできたらと思います。じつは今日着ている黒のパンツもベルリンで買ったものなんですよ。(と立ちあがって見せてくれる)
S:わあ、袴みたいなパンツですね。
M:ベルリンのファッションは、いわゆる商業化されたものではなくて斬新でアーティスティックなものが多いんですね。稼ぐためではなく服が好きだから作っているというようなデザイナーの服が、世界中から集まっている。僕がよく行くセレクトショップ「Studio183」も南米やアフリカのデザイナーの服を扱っていて、発展途上国のデザイナーをサポートする役目も担っていたりします。基本サステイナブルの素材やリサイクルの服というのも気に入ってます。
S:ということは、街の人のファッションも、かなり前衛的なんですか?
M:そうですね。みんな周囲の目はまったく気にしない。ドイツ人が使うフレーズで、「あなたは変わってるからベルリンに行きなさい」っていう冗談があるくらい(笑)。 この前、人気のカフェでお茶をしていたら、女性のウェイターさんが上半身裸で胸に葉っぱだけつけていました(笑)。
S:自由すぎる!(笑)
M:同じドイツでもミュンヘンでは、みんなきれいなスーツとかワンピースを着ているんですけれど、ベルリンではむしろきれいなシャツを着ていると友達ができないかもしれません(笑)。僕も日本にいたときは、普段からアイドルという職業を意識して服を選んでいたけれど、ドイツに来てからは「ありのまま、自分の心のままでいいんだ」と思えるようになって冒険できるようになったんですね。これはベルリンの影響がすごく大きいと思います。
S:そうだったんですね。ベルリンという都市には、もともとそういう自由な風土があったんでしょうか。
M:1900年代初めの頃からベルリンはリベラルな街として知られていました。LGBTQのコミュニティも発達していて。
S:そんなに昔から?
M:はい。でも、ナチスの支配下になって、いろいろ禁止されてしまって。そして第二次世界大戦後、ドイツが東西に分けられると、ベルリンは旧東ドイツ側の首都になって、暗黒の時代がしばらく続いたんですね。
S:東西ドイツの間には、"ベルリンの壁"がありましたもんね。
M:そうですね。でも、1989年に壁が崩壊する少し前くらいから、世界中の若いアーティストがベルリンに集まるようになったんです。旧東ドイツ時代のベルリンは貧しかったけれど、逆に大きな資本が入ってこなかったから、若者にとっては安くて集まりやすい街だったんですね。彼らが廃墟となった建物を利用して活動するようになり、アンダーグラウンドのシーンが発展していったんです。世界一のテクノシーンもここから生まれたんですね。
S:なるほど。ベルリンといえば、テクノのイメージがやっぱり強いですね。
M:テクノとファッションは、密接にリンクしています。ベルリンにベルグハイン(Berghain)という世界的に有名なテクノクラブがあるんですけれど知っていますか。
S:YouTubeで見たことがあります! 入り口で入場を厳しくチェックされる所ですよね!
M:そうなんです。有名なバウンサーがいて、彼自身もアーティストなんですけれど、彼が入場者を上から下までチェックして、「オーケー」となったら入れるんです。今回、僕は姉と一緒に行ったんですけれど、なんとか入ることができました。
S:さすがマリウスさん! 参考までに、どんな服を着て行ったんですか?
M:トップスはタイトなニットで、破れていて、ちょっと肌が見えているデザインでした。ボトムスはスポーティな黒のショートパンツ。で、黒い靴がいいかな、と思っていたんですけど、ベルリンに持っていくのを忘れて。新しい白い靴を履いていたら、姉がクラブのちょっと手前でそれに気づいて、「え? 何その新品の白い靴。それじゃ入れない!」って。それで急きょ、そこらへんの土で靴を汚して、「この靴には歴史があります」っていう生きた靴に変えて(笑)。
S:新しい靴が台なしに(笑)。
M:雰囲気も大事で、観光客は見抜かれるんです。「今日は一日アートを作ってて疲れたから、テクノで癒やされたいんだよね〜」みたいなバイブスを出すことが大事です。
S:かなりハードルが高そうです(笑)。
M:ベルグハインは、バレンシアガのデザイナー、デムナさんがリサーチに来ることでも知られています。ベルグハインの人たちの服装を見て、それをインスピレーションにオートクチュールを作るとか。バレンシアガは日本でも大人気ですが、ベルリンでは熱狂的なファンがたくさんいるんですよ。
S:ベルリンという街によくマッチしているんでしょうね。ちなみにベルグハインに友達5人と行って、2人だけ「オーケー」と言われる場合もあると思うんですけど、そういうときは、どうするんですか。
M:そのときは友情が試されますね。
S:友達のために入るのを諦めると?
M:逆です、逆。オーケーの出なかった人たちが、「いいよ、2人は入りなよ」「僕たち、別のクラブに行ってるから後で合流しよう」って言ってくれるかどうか。僕の友達はみんなそういうタイプなのでよかった。そうだ、いつかSPURチームでベルグハインに行きましょうよ!
S:そもそもバウンサーの視線に耐えられるでしょうか……。入れなかったときには、別のクラブで待ってま〜す!