M: Marius
S: SPUR
S 新しい年が始まりました! マリウスさん、今年はどんな年にしたいですか。
M 去年は巳年ということもあって、いろいろと脱皮の苦しみがあった年でしたけれど、今年は午年なので飛躍できるように頑張りたいと思います。
S 軽やかに駆け抜けたいですね。さて、2026年、最初のテーマはどうしましょう。新年らしく明るい話題がいいですかね。
M そう思ったんですけれど、できたら政治の話がしたいです。新年早々ヘビーなテーマだけど、昨年、高市総理の台湾有事に関する発言があって以来、中国との関係が不安定になっていますよね。
S そうですね。高市総理の発言に反発した中国政府が、自国民に日本への旅行を控えるように言ったり、中国軍機が自衛隊機にレーダーを照射したり。パンダが国内からいなくなるのもそのせいではないかといわれています……(涙)。
M 僕が心配なのは日本国内でも反中国の感情が高まっていることです。SNSでも中国人をバッシングするような内容のものがすごく流れてくるんですね。
S 昨年12月のANNの世論調査(※)では、「中国との関係に不安を感じるか」という問いに「とても感じる」「ある程度感じる」という回答が計66%と半数以上の人が不安視しているとわかりました。
M こんな状況下で、もし今「憲法を改正して戦争ができる国にしよう」という議論になったら、賛成する人が結構いるんじゃないかと。それがとても心配で。
S 昨年末には官邸幹部が「日本は核を保有すべき」という発言をして大騒ぎになりました。一昨年、ノーベル平和賞を受賞した被団協の方も抗議談話を出していましたね。
M 日本は世界で唯一の被爆国で、世界の先頭に立って核廃絶を訴えていかないといけないのに……。本当に残念です。
S そもそも高市総理の台湾有事に関する発言は、何が問題なのでしょうか?
M もともと日本国憲法では、第9条で、国際紛争を解決する手段としては、武力の行使を放棄することや軍隊を持たないことが明記されていますよね。
S 不戦の誓いですね。
M はい。唯一、武力行使が許されるのは日本が攻撃されたときで、自国を守るための「個別的自衛権」が許されています。ところが2015年、安倍政権のときに「安保法制」が成立して「集団的自衛権」が限定的に認められるようになりました。
「集団的自衛権」というのは自国が直接攻撃されていなくても日本と密接な関係にある他国が攻撃されて、日本が脅かされる「存立危機事態」になったときには武力行使ができる場合があるというものです。
S いわゆる憲法の「拡大解釈」ですね。あのときは大反対が起きて、多くの人がデモに参加したのを覚えています。日本と密接な他国とはどの国を指すのか、「存立危機事態」は具体的にどんな状態なのか——。そのときの政権の解釈次第で、いくらでも武力行使が可能になることにみんな危機感を持ちました。
M 今回の高市総理の発言もまさにそうで、台湾有事、つまり中国が台湾を武力で統一しようとしたら、それは日本の存立危機事態になりうると言ったんですね。つまり中国が台湾に攻めてきたら、米国が軍事介入し日本も応戦するということです。
S 確かに台湾と日本は友好関係にあるから助けたいと思う気持ちもわかるけど、日本と中国の関係も大事ですよね。
M そう。1972年の「日中共同声明」では、台湾は中華人民共和国の領土の一部であるという中国の立場を尊重していて、日本と中国はそれでやってきた。ところが高市総理が急に台湾側に立つ発言をしたので中国は怒っているんです。
S そもそも台湾有事が「存立危機事態」というのも議論を呼ぶ解釈かもしれませんね。憲法9条に反しているという声もあります。
地続きのヨーロッパでは、戦争の気配がより身近に
M 僕は日本の平和憲法は世界に誇れる素晴らしい憲法だと思うけれど、自国を守るためには軍隊が必要な面もあるし、武力は大事だと考える人がいるのも確かなんですよね。なので、ちょっと彼らの立場で考えてみたいと思います。 たとえばドイツでは志願制を原則とした段階的な兵役制度が始まっています。これはロシアによるウクライナ侵攻の影響が大きくて、ヨーロッパは地続きだから、ものすごく危機感があるんですね。ウクライナとドイツって、日本でいうと、青森と福岡くらいの距離だから。
S ええっ、近いですね!? それは平常心ではいられないですね。
M だからロシアがNATO加盟国を攻撃してきたときのために準備しておかないと、という緊張感がすごくある。しかもこれまではNATOの国々をアメリカが守ってくれていたけれど、トランプ大統領はもうお金も出さないし、ヨーロッパはヨーロッパでやってくれという感じだから、あまり頼りにならないんですよ。
S 日本にとっても他人事ではありませんよね。
M かつてナチス・ドイツが最初にポーランドを攻めたとき、周辺国家はポーランドを助けなかったんですよ。もしあのとき、周辺国家がポーランドとともに戦っていたら、ナチス・ドイツはあそこまで強大にならなかったんじゃないかという反省がある人もヨーロッパにはいて。だから早めに芽を摘んだほうがいいという考え方もあります。 日本は相手から攻撃を受けたときに初めて防衛力を用いることができる「専守防衛」が基本だけれど、じゃあ、どこかの国が日本に向けて数時間後にミサイルを発射しようとしているという情報を得たとき、どうするのか。それは専守防衛になるのか、ミサイルが着弾するまで待つのか。
S でも、ミサイルが発射されたという情報が間違っている可能性もあるわけですよね。実際イラク戦争もそうでした。当時アメリカのブッシュ大統領は、イラクに大量破壊兵器があると言って先制攻撃を仕掛けたけれど、結局、大量破壊兵器はなかった。戦争の正当性が損なわれることになりました。
自分の国の人の命も他国の人の命も等しく大事
M そう、だから本当にいろいろな考え方があると思うんです。僕は核廃絶に賛成だけれど、核が戦争の抑止力になるという考えもあります。もしウクライナに核があったら、ロシアはウクライナを攻撃することはなかったかもしれない。
S かといって各国、ひとつずつ核を持つというのも平和から遠のく気がします。
M そうですよね、戦争は国同士だけじゃなくて、対テロリストの戦争もあります。もしテロリストに核が渡ったりしたら大変なことになると思う。それに人間はミスをするし、機械もエラーがありますよね。冷戦時代、ソ連の防空システムの誤作動で、アメリカからミサイルが発射されたという誤報があって、あやうく核戦争になりかけたとか。
S 怖いですね。とにかくウクライナとロシアの状況を見ていて思うのは、戦争は始めること以上に、終わらせるのが本当に難しいということです。
M そう、だからこそ、とにかく戦争にならないための努力が必要で、他国との間にもめ事が起きても武力以外の手段、たとえば外交や民間の交流とか、そういうソフトパワーで、摩擦を緩和することが何より大事だと思います。自分の国の人の命も他国の人の命も等しく大事なわけで、お互いが生き残れる戦略を考えることがもっとも大切だと思います。
S 本当に。だいたい日本において今そこにある危機って、地震や気候変動ですよね。その対策や復興にお金をしっかり使ってほしい!
M 同感です。とにかく今年は、戦争や憲法について、いろいろと考えさせられる一年になると思います。中には危機感をあおるような極端な意見も出てくると思う。そのときになって、焦って考えるとつい感情に流されてしまうと思うので、常日頃からこの問題についてじっくりと考えてほしいんです。長い目で見たときに何が大事なのか、次の世代にとって何がベストなのか。皆さんの選択に日本の未来がかかっています!



