マリウス葉が慕い、敬愛する姉のマリレナがついに登場。強い絆で結ばれた二人がメンタルヘルスからフェミニズムまでを自由な思考で語り尽くした。
マリウス葉が慕い、敬愛する姉のマリレナがついに登場。強い絆で結ばれた二人がメンタルヘルスからフェミニズムまでを自由な思考で語り尽くした。
1992年、ドイツ生まれ。早稲田大学卒業。専攻は政治学。イギリスのロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの大学院を修了。世界的なコンサルティング企業に勤務した後、ベンチャー・キャピタル企業に転職。その後、起業するが離職。現在はセラピストの資格を取得するためにベルリンで勉強中。この秋から弟マリウス葉とともに、ポッドキャスト「Mari & Us」をスタート。
人生の幸せもキャリアも心と体の健康があってこそ
——三人はとっても仲よしなんですね。それだけに、マリウスさんがメンタルに不調を抱えたときはびっくりされたのでは?
マリレナ すごく心配しました。当時、私はロンドンの大学院にいたので、毎日のように長電話して話を聞いて。
マリウス あのときは本当に助けてもらった。僕が仕事に対して大きなプレッシャーを感じていると知って、マリレナが「一度、そこから離れたほうがいい」とアドバイスしてくれて。「今まで頑張ってきたんだから、もったいないよ」じゃなくて、「キャリアより、健康が最優先だから」って。心から僕のことを心配してくれてうれしかった。
マリレナ 私の考えだと、人生の幸せには、まずベースが必要だと思うの。ベースというのは心と体の健康ね。その上に、家族、友達、キャリアなんかをのせていく感じ。だから、たとえ仕事で成功したとしてもベースが整っていないと不安定で、短期的にはうまくいってもいずれは崩れてしまうんじゃないかって。
マリウス 支えられなくなってしまうんだね。
マリレナ そう。だからマリウスは歌や踊りが大好きだって知っているけれど、ちゃんと土台をつくった上で再びキャリアを築く必要があると思った。芸能界とは違う道を進むとしても、その作業は必要なんじゃないかって。
マリウス その考えは正しいと思う。ドイツに戻ってセラピーを受けるようになってからは、自分の心と向き合うことが、どれだけ大切なことか、よくわかった。周囲の評価を気
にしすぎて、本当の自分を見失っていたこともわかったしね。今でもセラピーで新しい学びや鳥肌が立つような気づきに出合うことがあるとマリレナに報告するんだけど、「それは大きなステップだね」なんて言われると、安心するし、励みにもなってる。
マリレナ でも私がメンタルダウンしたときに「助けて」って言えたのはマリウスだよ。マリウスのおかげで救われてたと思ってる。
——マリレナさんもメンタルヘルスの問題を抱えたことがあるんですね。ロンドンで大学院を卒業後、世界的なコンサル企業に就職して、その後は自ら起業して……と人もうらやむ経歴ですけれど、 何が原因だったんですか。
マリレナ 起業したとき、ビジネスパートナーとの人間関係に悩んでしまったんです。でも、事業はうまくいっていたので、なかなか手放せなくて、乗り越えようと頑張りすぎてしまったんですね。気づいたときには、すっかりメンタルの調子を崩していました。
Marilena
女性は怒りを取り戻して
いいんじゃないかって今は思ってる
Yo Marius
いつかは誰もが、ありのままの
自分でいられる社会に
なってほしいなと思う
男性中心の社会で、女性がありのままでいることは難しい
マリレナ ところでマリウスは最近、気になるニュースって何かある?
マリウス 僕はやっぱりアメリカの大統領選挙かな。アメリカ人ではないけれど、世界に及ぼす影響は大きいし。民主党候補のカマラ・ハリスさんは、当選したら、アメリカ初の女性大統領になるから、「ガラスの天井」(女性の昇進を阻む目に見えない障壁)は破られるか、ということでも注目されているね。
マリレナ 彼女は検事から政治家になって、強くなきゃいけないみたいな世界で生きてきた人でしょう? でも、そのわりにあまりガチガチな感じがしないというか。
マリウス 自然で温かい感じが素敵だと思う。ハリスさんがお母さんから叱られたエピソードも好き。「あなたは、突然、自分がココナッツの木から落ちてきたとでも思ってるの?」「あなたたちは、その前からあるコンテクスト(文脈)の中にあって、社会とともに存在しているのよ」と諭されたって。そういう俯瞰した視点、素晴らしいよね。
マリレナ 男性中心の社会で、女性がありのままでいるって、とても難しいことだけど、ハリスさんが自分らしくあるように見えるのは、お母さんの教育も影響しているのかも。
——マリレナさんが以前、勤務していたのは、外資系の大手企業ですけれど、そういう先進的なグローバル企業でも、まだ男性優位という感じなんでしょうか。
マリレナ お給料とか制度的な格差はなくてもビジネスの世界は、まだまだ男性が圧倒的に多くて、男性中心なんですね。コンサルに勤めていたときもチーム内はほとんど男性。相手のクライアントもほとんど男性。
マリウス よく言っていたね。「今日、会議で女性は私ひとりだけだった」って。
マリレナ そう。だから女性が自信をアピールするときは、自信のある男性のかたちをコピーしている場合が多いように思います。そのほうが出世するし、投資もしてもらえるし。
逆にありのままの自分を出すと、「自信がないのかな」って受け取られてしまうから、女性は、男性のフリをして仕事をしていることも多いんじゃないかな。
マリウス おかしな話だよね。仕事のスキルではないところで判断されるなんて。
マリレナ でしょう? それに対して私はずっと怒りを感じていたけれど、怒りってネガティブな感情だし、女性が怒ると、すぐヒステリーとか言われるから表に出しちゃいけないと思っていたのね。でも、最近は考えが変わった。感情って、それぞれ役目を持っていて、怒りも何かが間違っていたときに自分を守るために必要だと思うの。だから怒りを抑え込むのではなくて、それをエンジンにしていいんだって。女性は怒りを取り戻していいんじゃないかって今は思ってる。
マリウス 最終的には、女性らしさ、男性らしさっていう考え方自体、なくなるのが理想かもしれないけど、今はまだ過渡期だから闘うことも必要だよね。そしていつかは性別にしろ、人種にしろ、誰もがありのままの自分でいられる社会になってほしいなと思う。ちなみに僕は、よく「女子力が高い」って言われるでしょう?(笑) 料理が好きだったり、可愛い服が好きだったり、スキンケアをしたりするから。でも、それは僕にとっては「女性らしさ」とは関係なくて、ただ自分が好きなことをやっているだけなんだよね。
マリレナ そう、それね。男性だから泣いちゃダメとか、女性だから料理がうまくないとダメとか、刷り込みをなくして、ありのままの自分でいられる社会になってほしい。それが私たちの世代の責任だと思うのね。
マリウス 世代によって責任は変わるって話だね。戦後世代は、とにかく国の復興が最優先だったけれど、僕たちの親世代は豊かさを求めて、経済や技術力にまい進して。じゃあ、自分たちの世代の責任は何かといえば、人権だったり、環境だったり。フェミニズムやメンタルヘルスも間違いなくそのひとつだと思う。
マリレナ そういう問題に目が向くのは、日本が豊かで平和だからで、上の世代からしたら贅沢な悩みだと思うかもしれないけれど、
だからこそ、人間の本質に関わる重要なテーマだと思う。それを私たちの世代で解消して、次の世代にそのトラウマを残さないことが大事なんじゃないかと思います。今の世の中、楽しむことより、心身ともに自分を追い込んだり、痛めつけたりしてこそ、栄光が手に入るんだみたいな風潮があるけれど、私たちの世代の役目は、バイルズ選手が「笑顔で優勝しようよ」っていうメッセージを世界に飛ばすようなこと。私も何かを飛ばしたい。
マリウス 僕も飛ばしたい!
——SPURも飛ばしたいです! お二人のお話、とても勉強になったし、前向きな気持ちになりました。ありがとうございました!
本連載がスペシャルな動画になりました!
SPURの創刊35周年を記念して、誌面を飛び出し、全3回の動画になりました! 初回は元パラリンピアンで、モデルとして活躍中の一ノ瀬メイさんをゲストに迎え、「自己肯定感」について語ります。「女性のリーダーシップ」と題した2回目はカルティエジャパン プレジデント&CEOの宮地純さん、そして最後はマリウスさんと同世代の学生たちを迎えて「ジェンダーギャップ」について考えます。SPUR公式YouTubeにて順次公開するので、お楽しみに!