M: Marius
S: SPUR
M 11月に「アートウィーク東京(AWT)」と「Art Collaboration Kyoto 2025(ACK)」に行って、すごく楽しいアートな秋を過ごしてきました。中でもアート業界における女性アーティストの地位について、いろいろと考えさせられることがあったので、今月はその話ができたらと思っています。
S それは楽しみです。アートからいろいろな刺激を受けたんですね。
M はい。まずひとつがAWTで出会った大竹富江さんという女性アーティストの作品です。大竹さんは1930年代に日本からブラジルに移住して、39歳のときにアート制作を始めた方なんですね。もう亡くなられていますけれど、ブラジルを代表する抽象芸術家です。
S 大竹富江さん、恥ずかしながら初めて知りました。今、画像検索しましたが、なるほど、とても魅力的な作品ですね。絵画もあるし、版画や彫刻もあって。
M そうですね。抽象芸術(アブストラクト)というのは1910年代に起きたムーブメントで、説明的な要素を排除して、線や色使いで対象物を造形的に再構成したアートのことです。
大竹富江さんの作品は、おもにブラジルの広大な自然や地形を独創的なフォルムや色で表現していて、今回AWTで見た作品もシンプルだけど、宇宙を感じさせるような広がりがあって。中でも僕が好きだったのは、赤い色彩が印象的な抽象画で、大地のような流線形に引き込まれました。「この赤は情熱の赤? 土の色?」「この優しいカーブはどこにつながっているんだろう?」といろいろなことが浮かんでくる。アブストラクトだからこそ、想像がどんどん広がって感銘を受けました。
ゴッホにピカソにルノワール。有名芸術家は男性ばかり
M 実は僕も大竹富江さんについて、あまり知りませんでした。趣味としてアートヒストリーを学んできたつもりだったけれど、考えてみたら、知っているアーティストのほとんどが男性だと最近、気がついたんです。それで9月にニューヨークに行ったとき、『Women Painters』という女性だけのアーティストの画集を買って勉強していたところでした。
S 確かに。ゴッホ、ピカソ、モネ……誰でも知っている画家は男性ばかり。
M そうですよね。最近でこそ、女性アーティストにスポットを当てた展覧会が増えていますけれど、そういうムーブメントが起きたのは21世紀に入ってから。ジェンダー研究の観点から、昔の女性アーティストを掘り起こしたり、女性美術家を再評価したりする動きが、近年、やっと始まったという感じです。
S なぜこれまで女性アーティストの作品は見過ごされてきたんでしょうか。
M そもそも昔は女性の社会的地位が低かったからだと思います。西洋アートが大きく発展したルネサンス期は、女性はほとんど学校にも行けなくて、美大に入ることが本格的に認められたのは19世紀以降。それも女性が男性の裸を見るのはよくないからと、男性ヌードの肖像画のレッスンには女性が参加できなかったりして。
S ええっ⁉ 男性が描いた裸婦像はあんなにたくさんあるのに(笑)。
M 本当に(笑)。また女性アーティストが作品を販売するには法的な許可が必要だったり……。さまざまな制限があったようです。当時はまだ社会は男尊女卑で、女性がアートをやることに否定的だったということですね。だから当時の女性作家の作品があまり残っていないんですよ。残っている数少ない作品も美術館やコレクターがしまい込んでいて、表に出てこない場合があるようです。
S それは残念です。現代ではそういう状況は改善されているのでしょうか。
M まだまだ道半ば、というのが現実です。たとえば現在では、美大の生徒の半数以上が女性であるにもかかわらず、販売されているアートの多くは男性の作品です。世界の美術品のオークション市場を見ると、女性作家の売上比率はたった3.3%(※)なんですね。
S えっ、そんなに少ないんですか!
M 草間彌生さんは皆さんも知ってると思いますけれど、女性の超人気アーティストって、ほんのひと握りなんですよ。
ほかにも人種別に見ると、白人の男性アーティストが売り上げのほとんどを占めていて、アートはいまだにジェンダーや人種による格差がある業界なんですよね。
S アートって自由なイメージがあるから、そういうところから解放されている世界かと思っていたら、むしろ逆だったのですね。そういえば、かつてある女性アーティストに話を聞いたとき、美術評論家が高齢の男性ばかりで、アートの世界は、いまだに彼らの昭和的価値観で動いていると嘆いていました。日本だけのことかもしれないですが。
M 特に日本は保守的で男性優位な社会だからそういうこともあるでしょうね。大竹富江さんも日本に戻ったら、女性は自由な芸術活動が難しいということでブラジルに残ったそうです。
欧米でもアート業界をサポートしている富裕層はやはり男性が多いし、これまでのアートヒストリーの知識やデータによって自然とバイアスがかかって、女性作家より男性作家の作品のほうが高く評価されるということはあると思います。
S これを変えていくのは時間がかかるかもしれないですね。
M 大竹富江さんの展示会では、大竹さんの作品からインスピレーションを受けて作ったという、ブラジルの女性アーティスト、マリーナ・ペレス・シマオさんの作品も展示されていました。マリーナさんにお話を伺ったら、彼女自身、パリの美大で美術史を勉強したけれど、女性のアーティストの名前はほとんど出てこなくて、卒業後に大学では学ばなかった素晴らしい女性作家がたくさんいたことを知ったそうです。もし当時知っていたら、男性中心のアート業界で、女性作家がどうそれを乗り越えたのか、先輩方に話が聞けたのにと残念がっていました。
S 私たちも男性のアーティストの影に隠れがちだった女性作家に、積極的に目を向けていく必要がありますね。
年明けはアーティゾン美術館や東京国立近代美術館へGO!
S 京都のACKはどうでしたか?
M すごくよかったです。以前もこの連載で紹介しましたけれど、ACKは国内のギャラリーが海外のギャラリーをゲストに迎えてひとつのブースをシェアしたり、京都にゆかりのある作品を紹介したりするアートフェアで、2025年は70以上のギャラリーが参加していました。京都らしくお寺も会場になっていて、歴史ある建築物の中にコンテンポラリーアートを展示するなんて、すごくユニークだし、お茶と和菓子をいただきながらアートを見るというのもほかの国ではなかなかないことで、面白いなと思いました。
S 気になるアーティストはいましたか。
M「 女性とアート」というテーマからは外れてしまうけれど、笑達さんという方の作品が好きでした。和歌山県の山小屋で生活しながら、土を使って絵を描いている方で、神々が踊っていたり、動物が出てきたり、すごくプリミティブでタイムレスな絵なんです。人間と自然がすごく近い関係にあった古代の雰囲気を感じるというか。神秘的だけど力強くて感動しました。
S アートを通して、実り多い時間を過ごしたようですね。
M はい! あとAWTではないですが、今、東京駅近くのアーティゾン美術館で、『漂着』(2026年1月12日まで)という展覧会をやっていて、沖縄県のビデオアーティスト・山城知佳子さんと、宮城県在住の写真家・志賀理江子さんという二人の女性の作品が展示されています。ともにその土地に根差した作家で、特に山城さんの作品は戦争の傷跡と向き合ったムービーアートで心が揺さぶられました。
S 東京国立近代美術館では『アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦』(2026年2月8日まで)という展覧会もあります。1950年代から60年代の日本の女性アーティストによる前衛的な創作が展示されるようです。
M ぜひ皆さんにも会場に足を運んで、女性アーティストたちの熱気を体感してもらいたいと思います!



