早い人から聴いている、テン年代の人気急上昇バンド
圧巻の演奏力、美意識の高さ、ソウルやヒップホップ、ジャズ、エレクトロニック音楽を交錯させたサウンドで、早耳の音楽ファンを騒がせているWONK。バンドの枠を超えたクリエイター集団と、対面!
interview & text:Hiroko Shintani photography:Shunya Arai〈YARD〉 styling:Masataka Hattori
Profile2013年に東京で結成したバンド。’15年初めにEP『From the Inheritance』でデビュー。ボーカルの長塚健斗、ドラムスの荒田洸、キーボードの江﨑文武、ベースの井上幹の4人組。9月には第16回東京JAZZへの出演が決まっており、秋に新作をリリース予定。
音楽以外の得意分野を持って集まる合同会社みたいな感じ
――まずは音楽遍歴を教えてください。
長塚 子どもの頃バイオリンをやって、その後はJ-POP、ロックやメタル、ジャズ、ソウルに。バンド活動もしていました。大学時代にとあるイベントで歌ったらいい反応を得て周りからも歌をやればとすすめられ、今に至ります。
江﨑 僕はクラシック出身でずっとピアノを。中学1年生のときにビル・エヴァンスと出会ってジャズに目覚めて、ジャズとクラシックだけで育ったので、WONKに入って聴く音楽の幅が一気に広がりました。
井上 僕もジャズを趣味で演奏している家庭で育ち、小学生のときにギターを始めました。家ではジャズやフュージョンを演奏し、学校では流行の音楽を聴いて、ロックバンドをやっていたので、趣味はいちばん広いかも。
荒田 僕は高校3年生まで野球少年だったんです。でも高校からドラムをやってましたしヒップホップやビート・ミュージックにハマって。大学に入ってからはトラック制作もしてました。
――全員を知っていて、バンド結成を提案した荒田さんは、この4人なら相性がいいと感じていたんですか?
荒田 僕と仲がいい人は、たいていみんな仲よくなることが多かったし、実際に集まって音楽を作り始めたときも、すんなり進みました。
長塚 バンドやりませんか? いいよ! みたいなすごく軽いノリだったよね。最初の1年くらいは特に何もせず。
荒田 バンド名に時間かけたり(笑)。
江﨑 僕も、最初の頃はずっとウェブサイトのデザインを考えていました。
――音楽さえよければいい、という考え方のバンドではない?
井上 それがイヤだったんですよ。音楽のよさだけで広まる世の中じゃないし、その広め方や見た目まで考えなくちゃ。だからSNSで拡散する仕組みを作ったりあれこれ試行錯誤してます。
江﨑 音楽がいいのは当然で、ほかの部分でどれだけ努力をし、思想を反映できるかが問題。音楽だけでは食べていけないと認識したうえで始めたバンドでもあり、それで独自のレーベルやファッションブランドを設立したんです。皆、別に仕事を持っていて、長塚は普段料理人だし、僕は大学院に通っていて教育系の仕事にも携わっています。井上はゲームサウンドクリエイターで、荒田はトラックメイカー。レーベル内にそれぞれ好きなことをチャンネルとして持っているんです。
井上 合同会社みたいなところがありますね(笑)。好きなことだけやって生きていけたら最高だな……って。
海外に進出したいならとにかく行ってみる!
海外に進出したいならとにかく行ってみる!
――すでにヨーロッパでも公演していて、海外での活動に積極的ですよね。
江﨑 長塚が綴っている歌詞が英語なのも、そこに理由があります。
長塚 幼少期から英語に触れる機会が多かったんですが、英語でメッセージ性をどうのせるかを考えてますね。
井上 実際に海外で公演して、とにかく行くことが重要だとわかりました。東京での初ライブよりパリは盛況で。
――それに、ソウルやジャズを融合した音楽は、今や世界的潮流ですね。
井上 潮流ができるのには理由があって、世界中で同じような音楽を聴いて育ってきた同世代の人たちがそういう音楽をやっている。パリで知り合ったプロダクションの人たちも蓋を開けたら同世代(24歳~26歳)だったし。
荒田 そんななかで、日本らしさが自然に表れればいいなと思っています。
――“エクスペリメンタル・ソウル・バンド”と、音楽的コンセプトを明確に打ち出しているのも面白いですね。
荒田 自由度を重視する、という意味でつけたので、それに限定されるという意識はまったくないんですけどね。
江﨑 今で言うと“フューチャー・ソウル”と括るのが正しいんでしょうけど、先に“エクスぺリメンタル・ソウル”と言い切ってしまったので(笑)。逆にどのジャンルにも属していない感じがしてよかったと思います。
アルバムが注目されるとは思っていなかった
アルバムが注目されるとは思っていなかった
――現在は大きな注目を浴びているあなたたちですが、風向きが変わったと実感したのはいつ頃でした?
荒田 昨年秋、アルバム『Sphere』発売後に行なったワンマンのライブですね。
井上 EPを発表したときもワンマンをやったんですが、5人しか来なくて。だから『Sphere』発売後のワンマンは、死ぬ気で200人収容の会場をおさえたんです。そもそも、あのアルバムが注目されるとは思っていなかった。
江﨑 そうしたら、あっという間にチケットがなくなったんですよ(笑)。
――今レコーディング中の新作はどんなアプローチで作っているんですか?
井上 何か面白い仕掛けをしたいと思っています。僕らはかなりのキワモノもポップな曲も好きだから、『Sphere』だけでWONKを決めてほしくない。もっと幅広くできるってことを打ち出して、僕らの二面性を見せたいです。
荒田 そして少しずつ大きくなっていって、海外でも日本と同じくらいに知名度を上げられたらなと思っています。
WONKを構成するもの
WONKを構成するもの
音楽の枠に収まらない、4人のクリエイティビティやインスピレーションを物語るアイテムを公開
(左)キーボードとヘッドフォン
普段はそれぞれに仕事をしている4人のうち、ゲームのサウンドクリエイターとして活躍する井上の仕事道具。音のバランスや響きに興味を抱く彼は、バンド内でもベースに加えて、ミックスやマスタリングを担当。
(右)ゲームは総合芸術
仕事柄ハード・ゲーマーを自認する井上いわく、ゲームは「エンターテインメントであり、インタラクティブな総合芸術」。彼はこの『ホットライン・マイアミ』と『オーバーウォッチ』を、お気に入りソフトとしてセレクト。
(左)デザインと音楽関係の書籍
「愛読誌『ジャズ批評』と、デザインまわりを担当する自分が影響を受けたデザイン関連の書籍です」と江﨑。原研哉の『デザインのデザイン』、D.A.ノーマンの『誰のためのデザイン?』、レム・コールハースの『S,M,L,XL+:現代都市をめぐるエッセイ』
(右)ビート・プログラミングに使用
ドラマーであるだけでなくビートメイカーとしても、大学時代からヒップホップのトラックを制作している荒田。WONKでもその手腕を発揮しており、彼がビートのプログラミングに使っているのがAbletonのPushだ。
(左)初めて買ったアルバム
「小学校3年生のときに初めて買ったCDです」と荒田。アメリカ人ラッパーのクーリオが、1995年に世界的に大ヒットさせたこのアルバム『Gangsta’s Paradise』が、ヒップホップを聴き始めるきっかけになったという。
(右)オリジナルのコート
作品をリリースするにあたって、独自のレーベルepistrophを設立した彼らは、この春、同名のファッションブランドをローンチしたばかり。「服が好きな僕と荒田が中心に監修してます。アートワークはMasashi Ozawaさんにお願いしました」(井上)
(左)阿部裕介の写真
「阿部ちゃんは大学時代の同級生なんです」と長塚。WONKの最初のアーティスト写真を撮影したのがフォトグラファーの阿部裕介だ。当時在籍していたジャズ・バンドが阿部氏の写真展でライブを行なった際に、記念にもらった写真だそう。
(右)ジャケットの原画
デビューEP『From the Inheritance』のジャケットを飾った絵画。荒田の知人の画家であるYudai Deguchiさんに依頼したそう。「僕らはその頃、まだ知名度ゼロだったんですが、無理言ってDeguchiさんに描きおろしてもらったんです。見た目にこだわるバンドなので(笑)」と井上。
4人の“My Favorite”な8枚
4人の“My Favorite”な8枚
彼らが影響を受けたアルバムを2枚ずつセレクト。8枚をつなげば、WONKが包含するサウンドの幅が見えてくる
by EZAKI
(左)『On A Monday Evening』The Bill Evans Trio(Fantasy)
(右)『Piano Circus』Graham Fitkin(Argo)
「抒情的なピアノが美しい」と絶賛するビル・エヴァンスのライブ・アルバムは、1976年にトリオ編成で収録。40年の時を経て3月に発売された。6台のピアノで録音した『Piano Circus』は、「特異なサウンドは、現代音楽にありがちな難解さではなく爽快さを感じられる」。イギリスの現代音楽家グラハム・フィットキンの作品。
by NAGATSUKA
(左)『These Songs For You, Live!』Donny Hathaway(Rhino Records)
(右)『Blackmagic』José James(Brownswood Recordings)
「ライブ盤とは思えないクォリティと圧倒的な歌声に心が震える」というダニー・ハサウェイのアルバムに対して、ホセ・ジェイムズの2枚目は「ジャズ・シンガーにとどまらない広い表現力と、コラボレーションによるジャンルレスな楽曲のクォリティ」が聴きどころ。WONKは最近ホセの曲のリミックスも手がけた。
by INOUE
(左)『ライブ エチケット』岡村靖幸(SPACE SHOWER MUSIC)
(右)『Voodoo』D’Angelo(Virgin)
「すべてのパフォーマンスと仕草がかっこよくて愛おしい! 名曲『カルアミルク』でのひと言は泣けます」と評する、岡村靖幸が2011年に行なったライブのDVDと、ディアンジェロのセカンド。「私が語るまでもない名盤。ピノ・パラディーノのベースプレイに多大な影響を受けました。いつかこれに匹敵する何かを作りたい」
by ARATA
(左)『Fan-Tas-Tic(Vol.1)』Slum Village(Ne’Astra Music Group)
(右)『Things Fall Apart』The Roots(MCA)
「アルバム全体のサウンドのクールさと、プロデューサーであるJ・ディラ独特な音の紡ぎ方に影響を受けた」というスラム・ヴィレッジのデビュー・アルバムと、「作り込まれたアルバムの世界観、ドラムの音色とフィールは自分にとってのバイブル」と位置づける、ザ・ルーツの4枚目。ともにヒップホップの名盤だ。
(左から・江﨑)コート¥49,000/エム アイ ユー(ソーイ) ニット¥22,000・パンツ¥26,000/スタジオ ファブワーク(ウル) (荒田)ジャケット¥23,000/ヴェイパライズ スウェットパーカ¥17,000/グッド オル トラックパンツ¥17,500/リバイブ(ブランク コンセプト ウェア) その他/本人私物 (長塚)ジャケット¥50,000・パンツ¥23,000/パラダイストウキョウ(ワコマリア) シャツ¥28,000/ビームス原宿(オールド パーク) 靴¥33,800/スタジオ ファブワーク(ブローム) (井上)ジャケット¥74,000・シャツ¥20,000/スタジオ ファブワーク(ウル) パンツ¥27,000/ネオンサイン 帽子¥6,500/ハフ ジャパン(ハフ)
『Sphere』/epistroph昨年9月に発表したファースト・アルバム。複雑なビートと流麗な鍵盤、しなやかなベース、そしてクリアに響く美声が、ジャンルを横断してグルーヴを織りなす。
着たい服はどこにある?
トレンドも買い物のチャンネルも無限にある今。ファッション好きの「着たい服はどこにある?」という疑問に、SPURが全力で答えます。うっとりする可愛さと力強さをあわせ持つスタイル「POWER ROMANCE」。大人の女性にこそ必要な「包容力のある服」。ファッションプロの口コミにより、知られざるヴィンテージ店やオンラインショップを網羅した「欲しい服は、ここにある」。大ボリュームでお届けする「“まんぷく”春靴ジャーナル」。さらにファッショナブルにお届けするのが「中島健人は甘くない」。一方、甘い誘惑を仕掛けるなら「口説けるチョコレート」は必読。はじまりから終わりまで、華やぐ気持ちで満たされるSPUR3月号です!