2017.08.28

"私の音楽にはソウルを必ず感じてもらえると思う" 妖艶でポップなストレンジガール、キンブラにインタビュー

interview&text:Hiroko Shintani  photography:Yuki Kumagai


これまでは主に地元ニュージーランドとオーストラリアで活動していたキンブラという女性の存在が、海外でも知られるようになったのは5年前のことだ。グラミー賞最優秀レコード賞に輝いたゴティエの大ヒット曲「Somebody That I Used To Know」にフィーチャーされ、パワフルな歌声に注目が集まり、2014年にセカンド・アルバム『The Golden Echo』で世界デビュー。“プログレッシヴ・ポップ”などと評された、このセルフ・プロデュースのジャンルレスな作品は絶賛を浴びて、独自の世界観を投影したビジュアルやファッションでも強烈な存在感を突き付けた。サード・アルバムが完成間近とあって今後名前を耳にする機会が増えそうな彼女が、先頃初めて来日。インタビューに応じてくれた。

Profile
1990年、ニュージーランドのハミルトン生まれ。本名キンブラ・ジョンソン。ハイスクール時代にシンガー・ソングライターとして活動を始めて、17歳のときにメルボルンに移り住む。2011年に発表したデビュー・アルバム『VOWS』で早速ブレイクし、ニュージーランドとオーストラリアの音楽賞を総なめにした。

 

アルバムに着手するたび生きる環境を変えたくなるの

――日本に行くことは長年の夢だったそうですね。

ええ。実際に来てみて、期待を遥かに超える素晴らしさにびっくりしているし、このあと滞在を延ばして1週間東京で過ごす予定なの。刺激的なエネルギーに溢れていながら、思索に耽ることができる穏やかな面も備えていて、不思議なミクスチャーが成立している国よね。喧噪の中にスピリチュアリティが混在していることが、円滑な都会生活を可能にしている気がするわ。

――あなたが住んでいるニューヨークも大都会ですが、2年前まではLAで暮らし、その前はオーストラリアのメルボルンを拠点にしていました。同じ場所にじっとしていられないタイプなんですか?

私の場合は、新しいアルバムに着手するたびに環境を変えたくなるみたい。音楽活動を本格的に始めてから最初の5~6年をメルボルンで過ごしたんだけど、ファースト・アルバムを作って多くを学び、次に進む準備ができたように感じた。その後LAでも色んな夢を叶えて、ずっとコラボしたいと思っていた人たちとセカンド・アルバムを作ったわ。ニューヨークに関しては、訪れる度に私にたくさんの刺激をくれたから、いつか住んでみたかったの。LAでは車の中で過ごす時間が長かっただけに、町を歩き回れることもエキサイティングだし、結果的にはそういう環境が音楽に影響を与えたんじゃないかな。ストリートにしっかり足をつけて生活して、貧しい人や裕福な人、あるいは人種や文化的背景のさまざまな人たちと接していると、社会的な意識が高まるもの。世の中を論評するような曲も書き始めたわ。

 

即興的に楽器を鳴らして、音楽が導くままに任せる

――ニューヨークでの交友関係も広がりましたか?

ええ。まさに、ほかのアーティストと交流する機会を作って、インスピレーションを得られたらと思って、即興演奏のイベントを始めたの。仲良しのオーストラリア人のミュージシャン、ソフィア・ブルースと企画して。彼女は顔が広いし、回を重ねることに盛り上がって、ショーン・レノンやザ・ルーツのクエストラヴ、チボ・マットの本田ゆかと羽鳥美保なんかも参加してくれるようになったわ。対等な関係で楽器を鳴らして、音楽が導くままに任せるというフリーダムを、みんな楽しんでいるんだと思う。瞬間的な決断を要するから、すごく勉強にもなるし。

――ニュージーランドにはどれくらいの頻度で帰っているんですか?

毎年クリスマスに帰って家族と過ごすの。私が生まれ育った町は自然が豊かな美しい場所で、映画『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズを撮影したホビット村が、すぐ近くにあるの(笑)。何しろ片道23時間かかるから頻繁には帰国できないけど、自然とのコネクションを維持することは私にとってすごく大切で、ニューヨークでもしょっちゅう郊外の田舎町を訪れているわ。

 

人々の期待に逆らわずにはいられないの(笑)

――さて、ゴティエとの共演を経てあなたは、セカンド『The Golden Echo』でプリンスに比較されたり、高い評価を得ましたよね。あのアルバムへの反響をどう受け止めていますか?

『The Golden Echo』は少々実験的で、ゴティエの曲から人々が予想していたものとは違ったと思うのよね。私ってそんな風に逆らわずにはいられない人間で(笑)。いろんなジャンルをミックスして、遊園地で自由に遊ぶ子供みたいな気分で、やりたい放題やらせてもらったアルバムだったわ。そしてこのあとのサード・アルバムでも、また別の場所にリスナーを連れていこうとしているんだけど、私が尊敬するビョークやケイト・ブッシュも常に新しい試みを取り入れているし、さまざまなリアクションを見るのも楽しかった!

――そのサード・アルバムはどんな感じになりそうですか?

よりシンプルでダイレクトだと言えるのかな。27歳になった今、人間として成熟したと思うし、相手の目をじっと見つめてコネクションを築けるような曲を書きたかった。だから雑多なサウンドを山盛りにした『The Golden Echo』とは違って、「絶対に必要な要素って何かしら?」と自問しながら作ったわ。コラボレーターの数も絞ったし、歌詞もより率直になった気がする。今まではどこかシュールで浮世離れしたところがあったけど、今回はちゃんとリアリティに目を向けているの。

 

日本でのライブの衣装にはチカ キサダを選んだわ

――ヴィジュアルやファッション面もこれまでよりシンプルになるんでしょうか?

ドレスアップすることはやめないわよ(笑)。私にとってファッションはすなわちロールプレイなんだけど、人間は常に何らかのキャラを演じていると思う。仕事に行くときの自分、家に帰ってきたときの自分、その時々のシチュエーションに合わせて。それが人間の本質なのよ。そして私たちアーティストは、そういうロールプレイを大袈裟に演出した形で表現しているの。

――ステージ衣装はどんな風に選んでいるんですか?

普段からニュージーランドの新進デザイナーを積極的にサポートしているんだけど、ツアー中は、公演先の国のデザイナーの服を着るようにしていて、日本でのライヴにはチカ キサダの服を選んだわ。衣装はパフォーマンスをする上で大きな役割を果たすから、その時々の自分の音楽のエネルギーに関連付けられるような服を、いつも探しているの。

 

――そんなあなたが作る音楽に絶対に欠かせないものって何でしょう?

それは“ソウル”だと思う。私が好きなアーティストはみんなそうなのよ。だから、思い切りエレクトロニックな曲でも、思い切りシアトリカルな曲でも、逆にシンプルさを極めた曲でも、常にソウルを感じてもらえるはず。どれも私の心のうちに根差した音楽だから。

 

 

 

 

INFORMATION

『The Golden Echo』
Kimbra

ワーナーミュージック・ジャパン

新作が登場する前に聴いておいておきたいセカンドには、カラフルな音のレイヤーを重ねた、フューチャリスティックでファンキーなポップソングの数々を収録。フライング・ロータスやジョン・レジェンドら多彩のアーティストの手を借りて、R&Bもジャズもロックもエレクトロニカも、キンブラ流のヒネリが加えられている。

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