2021.04.06

天使の肉体【UMMMI.の社会とアタシをつなぐ音】

UMMMI./うみ
1993年東京都生まれの映像作家。これまでに、愛、ジェンダー、個人史と社会をテーマに作品を発表。ルイ・ヴィトンやアディダスなどのファッションブランドとの仕事の傍ら、音楽好きな一面を生かしMVを制作。

vol.2 天使の肉体

『The Ballad of Genesis and Lady Jaye』
Genesis P-Orridge
『Oil of Every Pearl’s Un-Insides』
Sophie

去年、最も愛するミュージシャンのひとり、Psychic TVのジェネシス・P・オリッジが死んでしまった。いま思うとアタシが去年ずっと落ち込んでいたのは新型コロナウイルスのせいだと思っていたけど、本当のところは彼/彼女の死に打ちのめされていたのかもしれない。ジェネシスはパートナーのレディ・ジェイと性転換や整形を通じて二人が同じ人間になっていく「パンドロジェニー」というプロジェクトを行なっていた。ジェネシスの生涯を追った映画『ジェネシスとレディ・ジェイのバラード』のサウンドトラックからもその様子や二人の新しい愛の姿を聴くことができる。ため息をつくような「愛してる」や「知ってる」が繰り返されるだけなのにいやらしくない曲とか、文字どおり二人だけのバラードなんだ。さらに、今年1月の終わりにSophieが不慮の事故で亡くなった。幻のような死は、大好きだった惑星が一瞬にして消えてしまったかのような喪失感がある。1stアルバム『Oil of Every Pearl’s Un-Insides』は、グラミー賞の最優秀エレクトロニック/ダンス・アルバム賞にノミネート。この部門で、初めてトランス女性として推薦されたことでも話題となった。二年半前にロンドンに住み始めて友達の少なかった頃、一日の終わりにこのアルバムを聴いていたのを思い出す。なんだか独りぼっちの惨めな女の子でいることが許される気分になれたから。収録曲「Is It Cold In The Water?」の"100年の明滅" という歌詞のように、またこの世で天使の輝きを放ってほしい。アタシたち人間の肉体やジェンダーの自由さ、その闘いを、二人が音楽を通して証明してくれたことは本当に重要なことだったと思う。お祈りを捧げます。

Monthly Pick-up

『Welfare Jazz』
Dry Cleaning
¥2,420/BEAT RECORDS
スポークンワードとギターロックがスリリングな攻防を繰り広げる本作で、ロンドン出身の4人組バンドがデビュー。クールなフロントウーマンはウイットのきいた言葉を淡々と紡ぎ、彼女を囲む男性メンバーの三人はダイナミックにノイズを鳴らして、抑制と解放の絶妙なコントラストを見せつける。
『Amapiano Selections』
Teno Afrik
¥2,420/Inpartmaint
今、世界の注目を浴びている音楽ジャンルのひとつ、アマピアーノ。メロウなキーボードや伝統的なパーカッションが特徴の、南アフリカ発のハウスだ。その若き旗手の1stアルバムは、キャラの濃い音を集めて、アマピアーノをとことんファンキーに解釈した。ユルいBPMも心地よくて、クセになる

SOURCE:SPUR 2021年5月号「UMMMI.の社会とアタシをつなぐ音」
text: UMMMI. text(Monthly Pick-up): Hiroko Shintani edit: Ayana Takeuchi

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