2021.08.08

理想と現実の狭間で【UMMMI.の社会とアタシをつなぐ音】

UMMMI./うみ
1993年東京都生まれの映像作家。これまでに、愛、ジェンダー、個人史と社会をテーマに作品を発表。ルイ・ヴィトンやナイキなどのファッションブランドとの仕事の傍ら、音楽好きな一面を生かしMVの制作も行う。

vol.6 理想と現実の狭間で

『TOXIC (feat. Dorian Electra & Dylan Brady)』
Pussy Riot
『ANGEL Feat. AZ』
FEBB as Young Mason

メンタルヘルスと向き合うことだけでもかなりしんどいのに、それを言葉にすることはもっとしんどい。仕事がたまっているのに鬱っぽくて起きれずベッドにいる堕落した人間はこの世でアタシだけなんじゃないか……。と絶望してしまうこともある。そんな中、大坂なおみ選手がメンタルヘルスについて議論するためにステイトメントを出し記者会見に応じないことを発表した。その姿を見て、改めて彼女の実直さに感動する。アタシたちは、すべてを無理やり頑張ろうとするのではなく、セルフケアをする権利があるんだ。

Pussy Riotのナジェージダ・トロコンニコワとドリアン・エレクトラ、ディラン・ブレイディがタッグを組んだ「Toxic」も、その大切さを毒々しさとともに吐いた最高な曲である。「テイラー・スウィフトみたいな少しチアリーダー的なバイヴスのある曲。あんたのせいでアタシはこうなった、みたいな」とドリアンは語り、ナジェージダは「数年前の恋人との関係性で傷ついたことを元に歌詞を書いた」という。メンタルヘルスについて語ることは傷ついた気持ちと向き合う作業でめちゃくちゃ大変だけど、弱ってるときにこそ、そんな人々の歌う声に耳を傾けるとスカッとする。

また、Febb as Young Masonは、「ANGEL Feat. AZ」のイントロで「I’m come here to save you(君を救うためにここに来た)」と静かにシャウトする。アタシがこんなにまで人を助けたいと強く思うのは、アタシ自身のことを誰かに助けてほしくて破裂してしまいそうだからなのかもしれない。もしかしたらFebbもそうだったのかも、と考える。3年前に24歳という若さで不慮の事故で亡くなった(とされている)彼のリリックの端々には、そんな繊細な救済の艶めきが見えて苦しい。惨めな生活も悪くはないけど、アタシたちは飢えるために生まれてきたわけじゃないから、現実と理想の狭間で時折昼間からビール飲んだりして、たまには自分を許して生きてゆこう。

Monthly Pick-up

『MirrorⅡ』
The Goon Sax
¥2,420/BEAT RECORDS
オーストラリア出身のインディ・バンドが、アバンギャルド音楽から得たアイデアをポップに消化。野心的な新作を完成させた。男女の声を対比させながら彼らが奏でるのは、何もかもアンバランスに配置された、モノクロな不協和音の空間。耳になじむ素朴なメロディが、その合間を気持ちよく突き抜けていく。
『Sensational』
Erika de Casier
¥2,420/P-VINE
ここにセカンドを発表するのは、90~00年のR&Bを、ソフトな歌声と洒脱なプロダクションで独自に解釈する、デンマーク人のシンガー・プロデューサーだ。そのクールな表情の裏に、強い自尊心や情熱を潜めている彼女。ハートブレイクの果てに自分本位の生き方を選ぶ女性の姿を、リアルに描いている。

SOURCE:SPUR 2021年9月号「UMMMI.の社会とアタシをつなぐ音」
text: UMMMI.   Hiroko Shintani(Monthly Pick-up) edit: Ayana Takeuchi

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