2021.11.08

緊張の時代【UMMMI.の社会とアタシをつなぐ音】

UMMMI./うみ
1993年東京都生まれの映像作家。これまでに、愛、ジェンダー、個人史と社会をテーマに作品を発表。ルイ・ヴィトンやナイキなどのファッションブランドとの仕事の傍ら、音楽好きな一面を生かしMVの制作も行う。

vol.9 緊張の時代

『草臥れて』
村八分
「Sumtime」
King Midas Sound

あまりにも日々は忙しく、極限の緊張状態の中で休む瞬間もない。ひたすら頑張り続けて、さすがにもうくたびれてしまったよ。これはアタシ自身の労働と制作に追い込まれている日々の話でもあり、同時に、今この日本で起きていることでもあるのではないかとぼんやり考える。ワクチン接種の普及もあり、全国都道府県で緊急事態宣言が解除された。が、まだ気が抜けないコロナウイルスの状況や衆議院選挙の行方に思いを巡らす(原稿が世に出る頃には社会の方向性が見えているのだろうか)。社会のムードは、未来が見えないまま、いや応なしに緊張状態の中で生き続けることをアタシたちに強要する。

そんなときに励まされるのは、村八分の『草臥れて』。アタシたちの歩き疲れて、くたびれきった身体をほぐすように、するすると歌詞が溶け込んでくる。そして、書籍『村八分』での、Gt.山口冨士夫氏の言葉に勇気をもらう。「村八分っていうバンドが持っていた緊張は、今思うとそこまで緊張することなかった緊張なんだよ」。彼らの張り詰めた音楽が、むしろアタシたちを解放してくれる。

そして、Hype WilliamsがリミックスしたKing Midas Soundの「Sumtime」を聴きながらへとへとで眠りにつく。この曲を聴いていると、いつもアタシのことを歌っているんじゃないかと錯覚してしまう。「彼女の人生がかなりしんどいものだったのを知っているけど、彼女はいつもコーヒー臭い息をしながら、私たちはきっとできる、と言った。彼女はときどき音楽のビートを聴いて取り乱したり、飲みすぎたりする」と歌うから。がむしゃらにコーヒーを飲んで働いて、お気に入りの曲で体を揺らし、一日の終わりにはついお酒を飲みすぎたりする。緊張状態を生きるにはあまりにも過酷なこの世界で、ときどき取り乱したりしながら、音楽だけが自分を解放してくれると本気で信じる。だからたまには力を抜いて、自分が信じることができるところへ。選挙で投票して、またアタシたちは日々の労働に戻り、自らの一票に祈りながら、ヒリヒリした時代を生き延びてゆこう。

Monthly Pick-up

『Astro Tough』
Audiobooks
¥2,640/Big Nothing
聴く者をカオスの渦に巻き込んで、頭をクラクラさせるのは、ロンドン出身の男女デュオだ。ここに登場するセカンドでは、デヴィッドが鳴らすアナログシンセの音も、エヴァンジェリンが綴る物語もますますフリーキーでシュール。ふたつの強烈な個性の衝突がスリリングなポップ・アルバムを生み出した。
『Songwrights Apothecary Lab』
Esperanza
¥2,860/UNIVERSAL MUSIC
音楽の治癒力を研究している米ジャズ界の異端児が、神経科学や心理学の専門家を交えて最新作を完成させた。12の収録曲は、それぞれ異なる作用があるという"薬としての音楽"。祈りにも似た歌と、ベースやホーンの反復するパターンが神秘的なバイブレーションを生み出し、ゆっくり心身に浸透していく。

SOURCE:SPUR 2021年12月号「UMMMI.の社会とアタシをつなぐ音」
text: UMMMI.   Hiroko Shintani(Monthly Pick-up) edit: Ayana Takeuchi