2022.01.08

あらゆるアイデンティティを受け入れる場所をつくること【UMMMI.の社会とアタシをつなぐ音】

UMMMI./うみ
1993年東京都生まれの映像作家。愛、ジェンダー、個人史と社会をテーマに作品を発表。ルイ・ヴィトンやナイキなどとの仕事の傍ら、ミュージックビデオを制作。

vol.11 あらゆるアイデンティティを受け入れる場所をつくること

GUEST
MAYUDEPTH
まゆでぷす●東京を拠点にするDJ/プロデュサー。PUNK ADELIXとして活動後、2016年より新たなソロプロジェクトMAYUDEPTH名義に。2018年にはEPを発表した。
『DELTA』
Lyra Pramuk
2020年のPitchfork Best New Albumを獲得したエクスペリメンタルの名作『Fountain』。それを4大陸から12名のアーティストが自由に再解釈した、リミックスアルバム。

UMMMI.(以下U) MAYUさんは、トランスジェンダー追悼の日である11月20日に行われたトランスマーチに参加されていましたよね。

MAYUDEPTH(以下M) 子どもと一緒に参加しました。強いメッセージや訴えを掲げながらも、みんな笑顔で平和なムードのマーチでしたね。

U 初めてデモに行ったときのことを思い出しました。知り合いもいないし、緊張したけれど、声を大きく張り上げなくても、そこに立っているだけでいいと思える場所だったなあと。デモという大きな集団の「ひとつの駒」になることが重要ですよね。これって、クラブにも通ずる部分があるなと。

M クラブはひとりで踊っていても、周りの人たちと一体になれる。私がcontactで開催しているクィアパーティ「MOTORPOOL」では、人種や年齢、ジェンダーなど関係なく、さまざまな人が安心してオーディエンスの一員として、音楽を楽しめるような空間をつくることを大切にしています。

U 私も、すべての人を受け入れたいなと思っています。発信方法はさまざまでも、自分のスタンスを伝えていくことって政治的なことだと感じます。

M 私たちにとって、音楽に関わることや、映像作品を発表することと、社会情勢を切り離して考えることはできないですね。コロナ禍でDJ活動が困難だったときに出会ったLyra Pramukの作品からはポジティブなエネルギーをもらいました。トランスジェンダーであるLyraは、自身の作品にジェンダーやアイデンティティに対するメッセージも込めたアーティスト。今年リリースされた『DELTA』も素晴らしかったです。デジタルを駆使し音域を広げられるボーカルは「性別にとらわれるものではない」と考えるLyraの声をベースに多様なアーティストがリミックスした曲が収録されています。なかでも、同じくトランスジェンダーのEris Drewによるトラックは、レイヴやクラブカルチャーから影響を受けた二人の愛と想像力が感じられるのでぜひ聴いてほしいです。これからも、自分が考えるメッセージを、音楽やクラブを通して伝えていきたい。

U 世の中に対して直接的な行動でなかったとしても、その思いを持ち続けて、これからも作品を作り続けることが重要なんじゃないかと思います。

Monthly Pick-up

『everyone has a breaking point』
Flowerkid
配信中/Warner Music Australia
ベッドルーム・ポップの新星として脚光を浴びる、トランスジェンダーのオーストラリア人シンガーのデビューEP。性別移行と並行して制作し、声質の変化を記録しながら、幼少期のトラウマやジェンダーを巡る葛藤を歌う。その残酷なまでの率直さにはサバイバーとしての強さがある。
『Romeo』
Sega Bodega
配信中/NUXXE
ジャケットが物語るように"光をまとう女性との恋"がテーマ。プロデューサーとして、NUXXEレーベルの主宰者として、広く活躍するアイルランド人アーティストの新作だ。軽やかに弾けるビートと、ふわりと重ねられた歌声が、夢現の境で展開する、恋人たちのストーリーを語り聞かせる。

SOURCE:SPUR 2022年2月号「UMMMI.の社会とアタシをつなぐ音」
text: Fumika Ogura(interview), Hiroko Shintani(review) edit: Ayana Takeuchi