2022.02.08

神様なんて信じない、セルフネグレクトのその先【UMMMI.の社会とアタシをつなぐ音】

UMMMI./うみ
1993年東京都生まれの映像作家。愛、ジェンダー、個人史と社会をテーマに作品を発表。ルイ・ヴィトンやナイキなどとの仕事の傍ら、ミュージックビデオを制作。

vol.12 神様なんて信じない、セルフネグレクトのその先

『Edge of the City』
Kenji
「So What」
Crass

かなり前からネットで知っていたKenjiは、アタシのいる北九州にかつて住んでいたと聞いて、個人的に思い入れがある。彼が最近リリースした、セルフネグレクトという自分の心や体のケアを放棄してしまう病について語ったアルバム『Edge of the City』では、タイトルと同名の一曲目から『神さまなんて信じていない』とすすり泣く女性の声が聴こえる。胸をえぐられるかのようなその曲、そしてそれに続く「綴り」という曲では、Kenji自身の声で内なる言葉を吐露する。自分や神にすら放棄された人の行く末が、この音楽に宿っているのかもしれないと思った。この曲は、わざと無茶苦茶なことをしたりと、セルフネグレクト状態に限りなく近い場所にいたことのあるアタシの救いとなった。このアルバムを聴いてからアタシは感情が解放されたのか、目にしたものや聴いた音楽に必要以上に心が反応してしまう。絶望的なまでの感化のまま、福岡のtetraというスペースで開催されていたパンク展に行った。いろいろな資料が展示されている中で、Crassのドキュメンタリーが流れた。「So What」という曲では『神が俺たちのために死んだからって何になるんだ?』と歌っている。Crassは自分たちの内側に向かうのではなく、外側、つまり誰もが訪れることのできるコミューンを音楽を通して生成することで、神や社会や政治に向かっていったのかもしれない。アタシも、「So what」(だから何なの?!)って気持ちで生きたい。そうなれるときもあれば、家にこもって落ち込んでしまうこともある。でも究極の状態になったとき、神や社会や助けなんて本当にあるの?と不安になってしまうくらい追い詰められたとき、Crassが誰でも訪れることのできるコミューンを築いたように、アタシに連絡してほしい。アタシはまだコミューンは作れていないけれど、放棄された人々がいつだって頼れる、開かれた場所を作りたいから。

Monthly Pick-up

『Chansons d’Ennui TIP-TOP』
Jarvis Cocker
¥2,750/ユニバーサル
ウェス・アンダーソン監督の最新作『フレンチ・ディスパッチ』に登場する架空の歌手のアルバムという設定のもとに誕生。UKロックの大御所ジャーヴィス・コッカーが、60年代のフレンチ・ポップの名曲群を時にコミカルなほどドラマティックに歌い上げ、粋でセクシーなペルソナを演じ切る。
『Glitch Princess』
yeule
¥2,200/P-VINE
シンガポール出身、ロンドンを拠点とするノンバイナリーのシンガー兼ビジュアル・アーティストの二作目。印象主義のクラシック音楽やゲーム・ミュージック、ドリーミーなメロディとラウドなノイズを融合させ、リアルとバーチャルの間を行き来するかのよう。ファジーさがクセになる。

SOURCE:SPUR 2022年3月号「UMMMI.の社会とアタシをつなぐ音」
text: Hiroko Shintani edit: Ayana Takeuchi

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