UMMMI./うみ
1993年東京都生まれの映像作家。これまでに、愛、ジェンダー、個人史と社会をテーマに作品を発表。ルイ・ヴィトンやナイキなどとの仕事の傍ら、音楽好きな一面を生かしミュージックビデオの制作も行う。
vol.17 存在の美しき「ピエロ性」について
「Clown」 Jana Rush
ヤナ・ラッシュの「Clown」と名付けられた曲ではひたすらこう連呼される。
「私はただのピエロ」「この旅は音のために」。そして曲の最後には「ありがとう、そしてファックユー」という叫び声が入る。おどけているようにも思えるし、どこか絶望の破片も感じる曲が収録されたEPは『Dark Humor』という。
このアルバムについてヤナが語っている対談を聞いて、その傍若無人かつ情熱的な話しぶりから一瞬でわかった。この人はアタシと同じタイプの人間だと。本当に深い悲しみの中にいたり、背負っているものが多い人ほど、不必要なほど明るい話し方をするときがある。その明るさの奥底に隠された痛みや悲しみを察知されぬよう、ある種ピエロのように生きることをつい選択してしまうのだ。
思わずこんなに感情移入をしまくってしまった理由は、彼女の今までの音楽制作遍歴にもある。1995年のデビューから20年以上のブランクを経て、2017年にアルバムを発表。自分の音楽は「鬱病との闘いのドキュメント」だと語っているように、約20年、彼女はひたすら闘っていたのかもしれない。制作を続けることはとても難しい。でも完全にやめることはあまりにも想像できないと感じるアタシは、ヤナの音楽的復活、2017年からコンスタントに新曲リリースしている姿に感動してしまう。
シカゴをルーツにもつ、音楽ジャンル"フットワーク"に深く関わりのあったヤナが、シーンの重要人物のひとりDJ Rashadが亡くなってからは「"フットワーク"だけを作ろうと思わなくなった」と愛を込めてコメントした。DJ Rashadの言葉を借りるなら「"フットワーク"とは、ステロイドを打ったテクノ」だ。
もちろん無理をしないことが一番だが、ステロイドを打ってでも、作品を作ればいい。そしてこの速度の速すぎる社会に生きるアタシたちは、ピエロになって悲しみを隠しておどけながら、生きることを引き受け続けるのだ。
MONTHLY SELECTION
Hatis Noit
¥2,420/Calentito
Kendrick Lamar
配信中/Universal
SOURCE:SPUR 2022年8月号「UMMMI.の社会とアタシをつなぐ音」
text: UMMMI. Hiroko Shintani(MONTHLY SELECTION) photography: Mayumi Hosokura (portrait) edit: Ayana Takeuchi