一枚のアルバムとの出合いから始まる、"私的"な音楽の旅。多彩な音が育む、新しいカルチャーの萌芽を目撃せよ! 『GUTS』 Olivia Rodrigo 『GUTS』 Olivia Rodrigo¥2,790/Interscope 現在の音楽シーンにおいてオリヴィア・ロドリゴというシンガー・ソングライターの登場は本当にセンセーショナルな出来事だったと言えるだろう。10代の頃から俳優として活動を始め、17歳でシンガーとしてデビュー。当初は"数多くいるティーン向けのアイドル歌手の一人"という見られ方をされていた。 しかし、ティーンエイジャーが抱える繊細な心情の揺れを楽曲作りと、高い歌唱力の両面でリアルに表現した作品『SOUR』で、懐疑的な風評を見事に吹き飛ばすことに成功。アヴリル・ラヴィーンやアラニス・モリセットを聴いて育った彼女のロック志向が自然な形で表出したポップサウンドは、同年代の若者だけでなく幅広い世代のインディーロック好きからも高く支持された。 そこから2年の歳月が流れ、20歳となったオリヴィアが、アーティストとしてさらなる進化を遂げたことを証明したのが最新作の『GUTS』だ。サウンド面では前作以上に多角的にロック路線を強化し、パンキッシュなギターの音色が彼女の挑戦的な姿勢をはっきりと示すように激しく鳴り響いている。描かれているのは、元恋人への未練や怒り、人間関係や社会と向き合うことの難しさなど、子どもから大人へと成長する過程で多くの人が経験するであろう悩みや迷いだ。時に友達に愚痴を聞いてもらうようにラフに、時に感情を爆発させるようにエモーショナルに表現した。 彼女の歌い手、作詞家としての幅の広さをひしひしと感じる一枚に仕上がった今作。多くの人々の共感を呼んでいる歌詞は、彼女自身が大ファンだというテイラー・スウィフトの影響がとても大きく反映されているという。まるで日記をのぞき見しているかのような、テイラーの等身大でリアルな歌詞のように、オリヴィアの楽曲もまたユニークな感情表現と豊かなストーリー性がとても魅力的だ。皮肉を交えた耳に残るキャッチーなパンチラインを量産し、ロックンロールからバラードまで幅広いジャンルを歌いこなす彼女のポテンシャルはまだ花開いたばかり。弱冠20歳。新時代の歌姫の覚醒の時はそう遠くないだろう。 HASHIMOTOSAN(ハシモトサン) ジャンルや国、時代を問わずさまざまなミュージシャンを愛する音楽マニア。今注目すべき、Itなアーティストを紹介する自身のX(旧Twitter): @hashimotosan122に熱烈なファン多し。 2023年11月のおすすめ音楽 『CHAI』 CHAI ¥2,750/Sony Music バンド名を冠した4作目で、シティポップやニューウェイヴを独自に解釈し、新境地を開拓。結成から10年の体験を踏まえ、ジェンダーの固定観念からの自由や個性の尊重などメッセージ性も強化。今までにない重みが備わっている。 『The Land Is Inhospitable and So Are We』 Mitski ¥2,750/Big Nothing 最近飛躍的に存在感を強めている日系米国人のアーティストの、ほのかにカントリー色を帯びた新作。絶望を希望に変え、心の穴を埋めて、ラブの在り処を確認する彼女の曲は、たくさんの傷跡がある自分を受け入れる、人生の中間報告のよう。 『Sample the Sky』 Laura Misch ¥2,640/Big Nothing あのトム・ミッシュを弟に持つ、シンガー兼サックス奏者が、初のアルバムを完成。複雑に重ねた声、幽玄なサックスの響き、地元サウスロンドン近辺の環境音、そして鼓動に似たビートで、自然が作り出すさまざまなパターンを神秘的に描く。 【HASHIMOTOSANの"雑食"音楽紀行】をもっと読む 【ジョーディー・グリープ】気鋭の若手が挑む、UKロックとブラジル音楽の未知なる融合【HASHIMOTOSANのおすすめ音楽】 【フローティング・ポインツ】自宅とダンスフロア双方を揺らす、電子音楽の最先端【HASHIMOTOSANのおすすめ音楽】 【テムズ】愛と希望、苦悩を世界に届ける、アフリカの歌姫【HASHIMOTOSANのおすすめ音楽】 【クレイロ】早咲きのベッドルームポップから、大人のソウル・ジャズへ【HASHIMOTOSANのおすすめ音楽】 【チャーリー・XCX】ポップアイコンが提示する、クラブサウンドとの新たなる交差【HASHIMOTOSANのおすすめ音楽】 【ベス・ギボンズ】加齢を受け入れ、別れと向き合う葛藤と現実を歌う【HASHIMOTOSANの"雑食"音楽紀行】