一枚のアルバムとの出合いから始まる、"私的"な音楽の旅。多彩な音が育む、新しいカルチャーの萌芽を目撃せよ! 『Lives Outgrown』 Beth Gibbons 『Lives Outgrown』 Beth Gibbons¥2,860/Beat Records 青春や若さを歌った歌は世の中に数えきれないほど存在するが、年老いていくことをテーマにした歌は多くないように感じる。人は平等に年を取り一歩一歩死へと近づいていく運命だが、そこから目を逸らすように若さに価値を見出していく。そんななか、まもなく60代に突入しようというベス・ギボンズは、自らの年齢と向き合い変化を受け入れる勇敢な女性だ。 90年代にブリストル・サウンドの先駆者として登場し、その後の音楽シーンに多大な影響を与えたポーティスヘッド。そのヴォーカリストとしても知られる彼女の初のソロアルバムとなる最新作『Lives Outgrown』は、家族や友人など近しい人たちとの多くの別れの経験がもととなり完成した作品だという。ゆったりとしながらも躍動感のある生々しいサウンドアレンジメントが、喪失感や不安などの感情をよりいっそうリアルに伝えている。近年アークティック・モンキーズやブラーなどの作品を手がけているプロデューサー、ジェームス・フォードによる臨場感や奥行きのある音作りも今作の聴きどころの一つと言えるだろう。 そしてなんといってもやはりこの人の声の持つ、聴き手を引き込む力は特別だ。決して伸びやかでキレのある響きではないが、さまざまな人生経験を積んできたからこそ出せる熟成感や説得力が言葉にも宿っている。 7月に開催されるフジロックフェスティバルへの出演も決まっているが、これは30年以上のキャリアの中で初めて実現する来日公演。伝説的なステージになるに違いない。 HASHIMOTOSAN(ハシモトサン) ジャンルを問わずさまざまなミュージシャンを愛する音楽マニア。Itなアーティストを紹介する自身のX(@hashimotosan122)にファン多し。昨年のベストアルバムはCaroline Polachekの『Desire, I Want to Turn Into You』。 2024年7月のおすすめ音楽 『Flower of the Soul』 Liana Flores ¥2,860/Universal Music ブラジルと英国の血を引き、ボサノバとブリティッシュ・フォークに軸足を置く、注目の新人がデビュー。自然界の事象にインスパイアされた彼女のファーストはたまらなくロマンティックで、花々の香りが漂う。 『I Hear You』 Peggy Gou ¥2,860/Beat Records 今やおなじみの韓国出身のDJ/プロデューサーかつ、クラブ発のアイコンが、満を持してアルバムを発表。90年代のハウスを進化させたポップ&タイムレスなダンス・アンセムで、双方向のコミュニケーションを促す。 『Night Reign』 Arooj Aftab ¥2,860/Universal Music 2022年にパキスタン人として初めてグラミー賞に輝いたシンガーの新作。比類なき美声に恵まれた彼女は、ジャズや民族音楽の境を横断。夜のイメージが支配する、幽玄でセンシュアルな世界を作り出した。 【HASHIMOTOSANの"雑食"音楽紀行】をもっと読む 【ジョーディー・グリープ】気鋭の若手が挑む、UKロックとブラジル音楽の未知なる融合【HASHIMOTOSANのおすすめ音楽】 【フローティング・ポインツ】自宅とダンスフロア双方を揺らす、電子音楽の最先端【HASHIMOTOSANのおすすめ音楽】 【テムズ】愛と希望、苦悩を世界に届ける、アフリカの歌姫【HASHIMOTOSANのおすすめ音楽】 【クレイロ】早咲きのベッドルームポップから、大人のソウル・ジャズへ【HASHIMOTOSANのおすすめ音楽】 【チャーリー・XCX】ポップアイコンが提示する、クラブサウンドとの新たなる交差【HASHIMOTOSANのおすすめ音楽】 【ベス・ギボンズ】加齢を受け入れ、別れと向き合う葛藤と現実を歌う【HASHIMOTOSANの"雑食"音楽紀行】