一枚のアルバムとの出合いから始まる、"私的"な音楽の旅。多彩な音が育む、新しいカルチャーの萌芽を目撃せよ! 『Lahai』 Sampha 『Lahai』 Sampha¥2,490/Young ここ数年の間で本格的な活動再開を最も待ち望んでいたアーティストがいる。ロンドン出身のシンガーソングライター、サンファだ。ケンドリック・ラマーやドレイク、アリシア・キーズなど、これまで錚々たるミュージシャンの作品に参加し、同業者から愛され信頼を集めている存在だ。 10年ほど前に初めて清濁併せ持つ神秘的な歌声を聴いて以来、そのときの衝撃がずっと頭に残り続けている感覚があるのだ。制作中に母親の死を経て、体感したことが内省的な作風として表れたデビュー作『Process』は、イギリス最高峰の音楽賞であるマーキュリー賞を受賞するなど、多くのメディアで高く評価された。 そこから約6年の歳月を経て、リリースした新作『Lahai』は、長い間待ち続けた甲斐のある素晴らしい完成度の作品に仕上がった。彼のミドルネームで、祖父の名前でもある"Lahai"と名付けられた今作。制作中に娘が誕生したことをきっかけに自分のルーツを見つめ直すと、彼の頭に浮かんだのは家庭や人生に関わるパーソナルな内容の歌詞。そのことから家族にまつわる名をタイトルに用いたという。亡くなった母から教わったこと、生まれたばかりの娘に伝えたいこと。彼の綴る歌詞には人と人とのつながりの尊さや、過去から未来へ受け継がれていくことの大切さが込められている。 サンファの音楽の原点であるアフリカの音楽やジャズ、UKのクラブミュージックなどからインスピレーションを受けたサウンド。その音はアコースティックな質感もありながら、エレクトロニックな要素を織り交ぜた非常にハイブリッドな響きをしている。野性的で複雑なリズムのドラム、美しくなめらかなピアノ、流麗なストリングスなどが折り重なり、これまで聴いたことのないアンサンブルを生み出していく様は圧巻だ。さまざまなミュージシャンとセッションを重ね、彼にしか鳴らすことができない唯一無二のサウンドを見事に形にしている。彼がなぜ多くのアーティストからラブコールを受けているのか。その理由を体感できる珠玉の一枚をぜひ堪能してほしい。 HASHIMOTOSAN(ハシモトサン) ジャンルや国、時代を問わずさまざまなミュージシャンを愛する音楽マニア。今注目すべき、Itなアーティストを紹介する自身のX(旧Twitter): @hashimotosan122に熱烈なファン多し。 2024年1月のおすすめ音楽 『New Blue Sun』 André 3000 配信中/Epic Records 世界を驚かせた本作は、アウトキャストの一員である奇才ラッパーのソロ・デビュー作だ。今回はラップではなく、独学で習得したフルートにフォーカス。アンビエントで美しいサウンドスケープを描き、音楽的な懐の深さを見せつける。 『Heaven Knows』 PinkPantheress 配信中/WARNER MUSIC 地元のダンス音楽とY2Kのポップ・ミュージックを融合したスタイルで大人気の英国人シンガーが、待望のファーストを完成。そんな音楽性の面白さはもちろん、甘い歌声で人間関係や名声を巡る葛藤を吐露する、豊かなリリシズムも要注目。 『Quarter Life Crisis』 Baby Queen 配信中/Polydor 南アフリカ出身、ロンドン在住の彼女は、人生最初の20数年を生きてみて自分について学んだことを、弾けるシンセサイザーにのせて歌う。自虐的ユーモアも相まって、「あるある感」あふれる体験談の数々に頷かずにいられない。 【HASHIMOTOSANの"雑食"音楽紀行】をもっと読む 【ジョーディー・グリープ】気鋭の若手が挑む、UKロックとブラジル音楽の未知なる融合【HASHIMOTOSANのおすすめ音楽】 【フローティング・ポインツ】自宅とダンスフロア双方を揺らす、電子音楽の最先端【HASHIMOTOSANのおすすめ音楽】 【テムズ】愛と希望、苦悩を世界に届ける、アフリカの歌姫【HASHIMOTOSANのおすすめ音楽】 【クレイロ】早咲きのベッドルームポップから、大人のソウル・ジャズへ【HASHIMOTOSANのおすすめ音楽】 【チャーリー・XCX】ポップアイコンが提示する、クラブサウンドとの新たなる交差【HASHIMOTOSANのおすすめ音楽】 【ベス・ギボンズ】加齢を受け入れ、別れと向き合う葛藤と現実を歌う【HASHIMOTOSANの"雑食"音楽紀行】