数多くのアーティストとの共演やグラミー賞の受賞を経て長らく期待されていた彼女の待望のデビューアルバム『Born in the Wild』は、アフリカの雄大な自然の中で育ったテムズのシンガーとしての個性や一人の人間としての魅力が存分に堪能できる一枚に仕上がっている。すべてを包み込むようなふくよかで深みのある歌声、ゆったりしたテンポの野性味のあるグルーヴが作り出すサウンドは、聴く者の心を癒やす包容力のある響き。幼少期に受けたいじめの経験やアルバム完成までに想像以上に時間がかかってしまった焦燥感など、これまでの人生の苦難や試練を振り返りつつ、未来への希望や野心を綴ったパーソナルな内容の歌詞も今作の聴きどころの一つ。急速に注目されたことで感じたプレッシャーや戸惑いを歌った「Burning」は今作のハイライトと言えるだろう。今年来日を果たしたタイラや今作に参加しているアサケなどと共に、アフリカ音楽・文化を世界に伝える存在として今後ますます目が離せなくなるだろう。