一枚のアルバムとの出合いから始まる、"私的"な音楽の旅。多彩な音が育む、新しいカルチャーの萌芽を目撃せよ! 『Atlas』 Laurel Halo 『Atlas』 Laurel Halo¥2,750/Awe 2023年9月にリリースされてから今も心に焼きついている作品がある。ロサンゼルスを拠点に活動する音楽家、ローレル・ヘイローの最新作『Atlas』だ。新鋭のエレクトロサウンドを生み出し続けてきた彼女だが、近年は映画のサントラを手がけるなど音楽への探究心はとどまることを知らない。このアルバムはピアノやストリングスの音色を中心に構成した、歌声のないインストゥルメンタル作品。再生した瞬間からここではないどこかへトリップする感覚を味わえる一枚だ。 幻想的な弦楽器、ピアノ、電子音が溶け合ったアンビエント・ジャズサウンドは、"聴く"というより水中に深く潜り込むような感覚に近い。彼女の作り出す海のように深く神秘的な音は、美しさに感銘を受けると同時に畏怖すら覚え、自分にとって未体験のサウンドだった。まるでクラシックの交響曲を作るように、多彩な楽器や演奏者の特徴を理解し、幽玄の音世界を構築するローレルの音楽家としての才能を感じたのだ。 また、昨年亡くなった坂本龍一氏は、自身の葬儀のために作成したプレイリストの最後の一曲にローレルの楽曲を選出するなど、彼女の才能を高く評価していた人物の一人。そんな坂本氏がキュレーターを務めたロンドン発の実験音楽イベントが「MODE」。そのスピンオフ企画として、東京の淀橋教会で昨年末行われたライブにローレルがゲスト出演し、参加者から絶賛の声が相次いだのは記憶に新しい。眠りに就く直前のまどろみのような心地よさを体感できる至高の一作だ。 HASHIMOTOSAN(ハシモトサン) ジャンルを問わずさまざまなミュージシャンを愛する音楽マニア。Itなアーティストを紹介する自身のX(@hashimotosan122)にファン多し。昨年のベストアルバムはCaroline Polacheckの『Desire, I Want to Turn Into You』。 2024年3月のおすすめ音楽 『Loss of Life』 MGMT ¥3,590〈2月23日発売〉/Sony Music NYインディロック界の人気デュオの、6年ぶりの新作。かつては皮肉のきいた曲で注目された彼らが本作で打ち出すのは、死や破滅に愛の力で抗う真摯なメッセージ。得意のサイケなサウンドも温かみが増した。 『On The Lips』 Molly Lewis ¥2,490/Big Nothing オーストラリア出身の口笛アーティストが、ハリウッド黄金期のラウンジ・バーをイメージしたファーストを完成。映画『バービー』(’23)でも耳にした口笛の優美な響きで、シネマティックな白日夢へと誘う。 『Letter To Self』 SPRINTS 配信中/City Slang バイセクシュアルの女性シンガーが率いるガレージパンク・バンドがデビュー。キリスト教の影響が強い故郷アイルランドで、そして音楽業界で彼女が覚えた葛藤を、エンパワーリングなアンセムに転化する。 【HASHIMOTOSANの"雑食"音楽紀行】をもっと読む 【ジョーディー・グリープ】気鋭の若手が挑む、UKロックとブラジル音楽の未知なる融合【HASHIMOTOSANのおすすめ音楽】 【フローティング・ポインツ】自宅とダンスフロア双方を揺らす、電子音楽の最先端【HASHIMOTOSANのおすすめ音楽】 【テムズ】愛と希望、苦悩を世界に届ける、アフリカの歌姫【HASHIMOTOSANのおすすめ音楽】 【クレイロ】早咲きのベッドルームポップから、大人のソウル・ジャズへ【HASHIMOTOSANのおすすめ音楽】 【チャーリー・XCX】ポップアイコンが提示する、クラブサウンドとの新たなる交差【HASHIMOTOSANのおすすめ音楽】 【ベス・ギボンズ】加齢を受け入れ、別れと向き合う葛藤と現実を歌う【HASHIMOTOSANの"雑食"音楽紀行】