2023.06.05

韓国と世界をつなぐ新鋭DJが、自己対話で見つけた希望【HASHIMOTOSANの"雑食"音楽紀行】

 

韓国と世界をつなぐ新鋭DJが、自己対話での画像_1

一枚のアルバムとの出合いから始まる、"私的"な音楽の旅。多彩な音が育む、新しいカルチャーの萌芽を目撃せよ!

『With A Hammer』 Yaeji

『With A Hammer』 Yaeji
『With A Hammer』 Yaeji
¥2,420/XL Recordings・Beat Records

映画『パラサイト 半地下の家族』(’19)のアカデミー賞受賞やBTSの世界的なブレイクなど、今やグローバルに大きな存在感を見せている韓国のショービズ界。アイドルの華やかなパフォーマンスは多くの人を魅了しているが、韓国の音楽シーンの面白さはそれだけにとどまらない。ParannoulやSE SO NEON、Say Sue Meといったインディーロックバンドや、ペギー・グーやパク・ヘジンなどのDJのサウンドが海外でも高く評価されているのだ。

ニューヨークを拠点に活動しているイェジも、韓国をルーツに持ち世界を舞台に活躍しているDJの一人だ。ハウスやテクノ、ヒップホップ、R&Bなど多彩なジャンルが混ざり合った独自のサウンドには、幼い頃から日本を含めさまざまな国に移り住み続けてきたことも大きく影響を与えている。

最新作『With A Hammer』は、ニューヨーク、ロンドン、ソウルを舞台に製作されたアルバムで、それぞれの都市のカラーやトレンドが少しずつ取り入れられている。多種多様な色づかいで描かれた、バリエーション豊かなサウンドが魅力的だ。英語と韓国語を織り交ぜた彼女のヴォーカルスタイルは独特のリズムや響きを持ち、そのキュートな声質も相まって一度聴くと耳から離れない中毒性がある。

また、「怒り」がテーマとなっている今作の歌詞にもぜひ注目してほしい。幼少期に受けたいじめ体験、そして文化的、社会的にも抑圧されてきた韓国系移民としての苦悩、近年世界的に深刻化しているアジア系人種へのヘイトクライム——。彼女の中に蓄積していた怒りの感情が"ハンマー"として表出し、それらを叩き壊し新たな未来を創造していくというプロセスが描かれている。サウンドからも歌詞からも彼女の挑戦的な姿勢が感じ取れる。

ここ数年、K-POPや韓国映画の流行で世界中の人々の耳に韓国語がなじみ、英語以外の言語の歌も受け入れられる土壌が出来てきているように思う。K-POPだけでなく、韓国独自の文化や魅力を持つK-インディーを耳にする機会は今後ますます増えていくだろう。

HASHIMOTOSAN(ハシモトサン)プロフィール画像
HASHIMOTOSAN(ハシモトサン)

ジャンルや国、時代を問わずさまざまなミュージシャンを愛する音楽マニア。今注目すべき、Itなアーティストを紹介する自身のTwitter(@hashimotosan122)にファン多し。

MONTHLY SELECTION

『I Hope You Can Forgive Me』  Madison McFerrin

『I Hope You Can Forgive Me』  Madison McFerrin

¥2,750/Big Nothing

ジャズシンガーのボビー・マクファーリンを父に持つマディソン。このファーストでは、親譲りの美声を複雑に重ねてエモーションを増幅。その声をエレクトロニック・ビートと生楽器を絡めたサウンドスケープに放って、聴き手を抱擁する。

『Good Lies』  Overmono

『Good Lies』  Overmono

¥2,420/Beat Records

待望のデビュー作を発表するのは、英国クラブ音楽界の期待を背負うデュオだ。先頃ジバンシィのショーにBGMを提供した彼らは、ここ20年間のトレンドに目配せしつつ、ダンスフロアの熱を簡潔な曲に凝縮。高揚感のスイッチが即オンに。

『After the Magic』 Parannoul

『After the Magic』 Parannoul

¥2,530/Inpartmaint

昨今世界的な注目を浴びるミステリアスな韓国人ミュージシャンが、着々とスケールアップした新作を完成。優しい声に誘われるままに、色とりどりのノイズとリズムとテクスチュアを巻き込んで広がっていく、壮大な夢の世界に踏み込んで。

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