2023.03.07

サウスロンドンと、西アフリカの空気が生んだ、現代ジャズの旗手【HASHIMOTOSANの"雑食"音楽紀行】

 

サウスロンドンと、西アフリカの空気が生んの画像_1

一枚のアルバムとの出合いから始まる、"私的"な音楽の旅。多彩な音が育む、新しいカルチャーの萌芽を目撃せよ!

『Meeting with a Judas Tree』 Duval Timothy

『Meeting with a Judas Tree』 Duval Timothy
『Meeting with a Judas Tree』 Duval Timothy
¥2,860/Carrying Colour

日々音楽に触れていると、何を聴いたらよいかわからなくなることがある。しかし、そんなときでもつい聴き入ってしまうものこそ、自分が心から"好きな音"なのではないだろうか。僕にとってシャーデーやフランク・オーシャンがまさにそんな存在だ。そこに最近仲間入りしたのがサウスロンドン出身のミュージシャン、デュヴァル・ティモシー。音楽家であるだけでなく映像や絵画、アパレル、さらには料理本までを手がけるマルチアーティストだ。

彼の楽曲の特徴はジャズを軸にさまざまなジャンルが接合した、モダンクラシカルな響き。そして、音数は少なく、あくまでつくりがミニマルであること。まるで音の一つひとつに色がついているような、共感覚的な要素のあるサウンドという印象を受ける。作品の多くが歌声のないインストゥルメンタルであるものの、彼が奏でるピアノの音色は、人の体温や気配を含んだ聴き手に寄り添うような有機的な質感をしている。複雑な構成や、無駄を削ぎ落としたシンプルな音楽。その音はどんな気分のときでも優しく、すーっと日常に溶け込み、そこにさりげない彩りを与えてくれるのだ。

最新アルバム『Meeting with a Judas Tree』は、デュヴァルの父親の故郷、西アフリカ・シエラレオネと、ロンドンの2拠点で制作された。彼のサウンドの持ち味は、あえて雑音を取り込み、風通しのよい響きをしていること。楽曲に用いられている鳥のさえずりや虫の羽音、風に揺れる植物の音は実際に街や路上でフィールドレコーディングを行い、採取したもの。そこに込められているのは"自然環境に関心を持ってほしい"という切実なメッセージだ。

ここ数年ケンドリック・ラマーやソランジュなどの一流アーティストの作品に参加し、今最も注目されるサウンドメイカーとなったデュヴァル・ティモシー。彼個人の、そして彼の関わった作品を聴くことで次々と新しい音や、知らなかった才能に出合える。これからの音楽シーンのハブとして、彼の名前を耳にする機会は今後間違いなく増えていくだろう。

HASHIMOTOSAN(ハシモトサン)プロフィール画像
HASHIMOTOSAN(ハシモトサン)

ジャンルや国、時代を問わずさまざまなミュージシャンを愛する音楽マニア。今注目すべき、Itなアーティストを紹介する自身のTwitter(@hashimotosan122)にファン多し。

MONTHLY SELECTION

『Desire, I Want to Turn into You』 Caroline Polachek

『Desire, I Want to Turn into You』 Caroline Polachek

配信中/Perpetual Novice

キャロラインといえば、今の音楽界で最も冒険的でスタイリッシュなポップアーティストのひとり。"欲望"をキーワードに掲げた最新作でも、過剰の美学に基づいたポップソングを次々繰り出す。そのミックス&マッチのセンスは唯一無二だ。

『RUSH!』 Måneskin

『RUSH!』 Måneskin

¥2,640/Sony Music Labels Inc.

イタリアから現れて世界を席巻した4人組が、待望の3作目を完成! 大ブレイクはしたものの、気負いなく、遠慮もなく、自分たちのロックンロールを鳴らす彼ら。パンクもディスコもグランジも、グラマラスでラウドなマネスキン色に塗り替える。

『After the chaos』 Yaffle

『After the chaos』 Yaffle

¥3,300/Universal Music

ドイツの名門レーベルから新作を発表するのは、おなじみの敏腕プロデューサーだ。今回の彼は原点のクラシックに立ち返り、生楽器の響きのぬくもりを追求。ノスタルジアをかきたてる曲は、カオスからの解放を願う祈りのようでもある。

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