一枚のアルバムとの出合いから始まる、"私的"な音楽の旅。多彩な音が育む、新しいカルチャーの萌芽を目撃せよ! 『Charm』 Clairo 『Charm』 Clairo ¥2,860/UNIVERSAL MUSIC 成長過程を共有することで大きなファンダムを作り上げているアイドルと同様に、作品を出すごとに成熟・変化していくのを音楽を通して感じられるのは、若いミュージシャンを応援する醍醐味の一つだと思う。 10代の頃にYouTubeへの投稿をきっかけに爆発的な人気を獲得したクレイロは、作品を重ねるごとにゆっくりと、しっかりと大人の女性へと歩みを進めている現在26歳のシンガーソングライターだ。急速に注目を集めたことで精神的に不安定となった彼女は、ニューヨーク北部ののどかなエリアに移り住み、古いレコードを聴いたり愛犬と過ごすことで落ち着きを取り戻していった。 そんなクレイロの最新作『Charm』は、彼女が傾倒している’60s・’70sのソウルやジャズ、ロックへのリスペクトとアナログ録音へのこだわりがこれでもかと詰め込まれた、アダルトな仕上がりの一枚だ。魅惑的なムードの「Juna」や軽快なグルーヴが堪能できる「Add Up My Love」といった収録曲を聴いていると、彼女がいかに今作をリラックスした状態で楽しみながら制作したのかが伝わってくる。 自身のセクシュアリティについての葛藤やうつ病とのつき合い方などを歌い、若者の共感を集めていたかつてのベッドルームポップスターの面影は薄れ、人とのつながりや孤独の大切さを綴った歌詞やアンニュイな歌声からは洗練された大人の余裕が感じられる。聴き込むほどに味わい深さが増していくヴィンテージのような質感をこの若さにして早くも醸し出しているクレイロ。これからの進化が楽しみで仕方ない。 HASHIMOTOSAN(ハシモトサン) ジャンルを問わずさまざまなミュージシャンを愛する音楽マニア。Itなアーティストを紹介する自身のX(@hashimotosan122)にファン多し。最近は、世界各国の年代別ヒット曲を聴けるアプリ「Radiooooo」に夢中。 2024年9月のおすすめ音楽 『Buzz』 NIKI 配信中/88rising Music アジア系アーティストに特化したLA発のレーベル88risingから、ジャカルタ出身の注目のシンガーが新作を発表。繊細なインディ・ロックに包まれた歌声で、変化の渦中にある自分の心の機微を丁寧になぞる。 『Early Twenties』 Cat Burns 配信中/Sony Music ゴスペル色が強いフォーク・ソウルを志向する英国人アーティストが、待望のファーストを完成。生きることと愛することから得た教訓を聴き手と分かち合う彼女。その気さくな言葉に、友達みたいな親しみが湧く。 『Who Am I』 Berwyn 配信中/Sony Music 現代の英国で移民として生きることのリアリティを鮮烈に描くのは、トリニダード生まれ、ロンドン在住のバーウィン。ラップと歌と朗読で、時にユーモアを交えた言葉を駆使し、自分の居場所を探し求めている。 【HASHIMOTOSANの"雑食"音楽紀行】をもっと読む 【フローティング・ポインツ】自宅とダンスフロア双方を揺らす、電子音楽の最先端【HASHIMOTOSANのおすすめ音楽】 【テムズ】愛と希望、苦悩を世界に届ける、アフリカの歌姫【HASHIMOTOSANのおすすめ音楽】 【クレイロ】早咲きのベッドルームポップから、大人のソウル・ジャズへ【HASHIMOTOSANのおすすめ音楽】 【チャーリー・XCX】ポップアイコンが提示する、クラブサウンドとの新たなる交差【HASHIMOTOSANのおすすめ音楽】 【ベス・ギボンズ】加齢を受け入れ、別れと向き合う葛藤と現実を歌う【HASHIMOTOSANの"雑食"音楽紀行】 【ビヨンセ】アメリカ音楽の歴史を、多様な視点で再解釈する旅【HASHIMOTOSANの"雑食"音楽紀行】