一枚のアルバムとの出合いから始まる、"私的"な音楽の旅。多彩な音が育む、新しいカルチャーの萌芽を目撃せよ! 『Madres』 Sofia Kourtesis 『Madres』 Sofia Kourtesis¥2,490/Ninja Tune 2023年の音楽シーンを振り返ると、その主役は間違いなく女性アーティストだったと思う。SZAやテイラー・スウィフトの作品が驚異的な売り上げを記録。そして、二人がノミネートされた第66回グラミー賞では、主要部門のノミネーションのほとんどを女性が占める結果となった。彼女たちがお互いを高め合い、活気づいている現在の音楽シーン。 その動きを加速させたのは、ビヨンセが2022年に発表したアルバム『RENAISSANCE』だ。多様なカルチャーへのリスペクト、そして多彩なサウンドへの挑戦心は多くの人々に勇気と刺激をもたらし、その後のシーンへ大きな影響を与えたのだ。 それをきっかけに2023年は世界各地でダンスミュージックが大きな盛り上がりを見せた一年となった。ピンクパンサレスやケレラ、NewJeansなど、世界各国の女性による優れたダンス音楽が続々とリリースされた中で、ぜひともチェックしておきたい存在がソフィア・クルテシスだ。 ペルー出身のソフィアのデビューアルバム『Madres』は、南米出身者ならではの祝祭感のあるリズム、そして現在拠点にしているベルリンのクラブシーンから着想を得たハウスミュージックがかけ合わさったエッジィな音が魅力。キレ味のいいサウンドが堪能できる傑作に仕上がっている。 世界を旅しながら各地でフィールドレコーディングを行い、そこで集めた街の喧騒や人々の会話などの生活音が楽曲に使用されているのもポイントだ。彼女が作り出すサウンドは、クールな質感でありながら、どこか人のぬくもりや生々しさが感じられる、とてもエネルギッシュな響きをしている。 また今作はがんで闘病していた母と、その命を救ってくれた医療従事者に対する感謝の思い、そして故郷ペルーを離れたソフィアを受け入れてくれたベルリンのLGBTQコミュニティへのリスペクトが込められた作品になった。ソフィアという一人の女性の人間味が感じられるだけでなく、個性や多様性を尊重する今の時代を表している渾身の一枚。心躍る音に身を任せ、その魅力を存分に堪能したい。 HASHIMOTOSAN(ハシモトサン) ジャンルや国、時代を問わずさまざまなミュージシャンを愛する音楽マニア。今注目すべき、Itなアーティストを紹介する自身のX(旧Twitter): @hashimotosan122に熱烈なファン多し。 2024年2月のおすすめ音楽 『Soft Rock』 Thy Slaughter 配信中/PC Music ハイパーポップの発信源として多大な影響を及ぼしたPC Music。昨年末に活動停止した同レーベルの最後の作品は、主宰者A・G・クックのユニットによる新作だ。彼らならではのセンスで切り貼りした奇想天外なロックで、期待を裏切らない。 『Think Later』 Tate McRae 配信中/RCA デビュー当初はセンシティブで影のある曲の数々で注目を浴びたカナダ人シンガーソングライターが、このセカンドでプレイフル&挑発的にモードチェンジ。音楽性やイメージもY2Kの感覚でアップデートされ、改めて注目する価値あり。 『Tyla』 Tyla 配信中/Epic アフリカ大陸出身の女性ソロアーティストとして、全米シングルチャート初のトップ10入りを果たした新人が、デビューEPを発表。地元南ア発の新ジャンル、アマピアーノのビートで独自色を加えたR&Bの完成度に、大器の予感が高まる。 【HASHIMOTOSANの"雑食"音楽紀行】をもっと読む 【フローティング・ポインツ】自宅とダンスフロア双方を揺らす、電子音楽の最先端【HASHIMOTOSANのおすすめ音楽】 【テムズ】愛と希望、苦悩を世界に届ける、アフリカの歌姫【HASHIMOTOSANのおすすめ音楽】 【クレイロ】早咲きのベッドルームポップから、大人のソウル・ジャズへ【HASHIMOTOSANのおすすめ音楽】 【チャーリー・XCX】ポップアイコンが提示する、クラブサウンドとの新たなる交差【HASHIMOTOSANのおすすめ音楽】 【ベス・ギボンズ】加齢を受け入れ、別れと向き合う葛藤と現実を歌う【HASHIMOTOSANの"雑食"音楽紀行】 【ビヨンセ】アメリカ音楽の歴史を、多様な視点で再解釈する旅【HASHIMOTOSANの"雑食"音楽紀行】