【連載第16回】アートセレブのたしなみ/12万枚の金の小判が舞う『滝沢歌舞伎』で金運アップ

 年々進化し続ける滝沢秀明主演・演出の『滝沢歌舞伎 10th Anniversary』が開幕。10年目で海外公演も開催、公演中に500回記念を迎え、しかも松竹創業120周年というセレブレーションな公演に行って参りました。
 シンガポール公演もあるということで、英語のナレーションもところどころに挿入され、日本男児の素晴らしさを世界に喧伝するのにふさわしい舞台でした。「春の踊りはよ〜いやさ〜」という風流なかけ声で、タッキーと薮(Hey!Say!JUMP)、北山(Kis-My-Ft2)の三人が軽やかにフライングし、観客を現実世界の外にいざないます。和服で口上を述べて三つ指をついてお辞儀したと思ったら、太鼓の上で踊ったり、下駄でタップダンス(下駄ップというそうです)したり、伝統の枠にはまらない自由な表現が。和文化をフィーチャーするとなると、どうしてもヤンキーっぽくなってしまいがちですが(ex. よさこい)、この滝沢歌舞伎はタッキーの端正な顔立ちとストイックなオーラのおかげで、品格を保っています。

 

前半のクライマックスは、タッキーが鼠小僧に扮したシーン。お屋敷から千両箱3箱を盗み出し、縦横無尽に走り回ったあと、壁の上に立って小判を大量にばらまきます。貧しい人々に盗んだ小判を惜しみなく分け与えていた鼠小僧の伝説が再現。それも、半端な数だと取り合いになってしまいますが、まかれたのはなんと12万枚。前回の8万枚から増量サービスです。金色の小判と、「滝沢歌舞伎」のロゴ入りのレア小判がふんだんに降り注ぎました(拾ってOKだそうで、持ち歩くと金運上がりそうです)。 そのあと、大量の紙吹雪が降ってくる演出もあり、劇場の床がもはやアートのようです。
 アートといえば、肉体という最高の芸術も観賞できるのがこの公演の女子的な見所。通称「腹筋太鼓」は、英語では「Great physical effort」と説明されていましたが、肉体を酷使する腹筋の姿勢で和太鼓を打つパフォーマンス。しかも出演するJr.たちもタッキーも半裸で、サービス精神が旺盛です。割れた腹筋や上腕二頭筋が汗で光る様子を観ながら、太鼓のバチが振り下ろされるとともにフェロモンがほとばしり、音が子宮に響くという、五感全てが感応する素晴らしいパフォーマンス。その半裸が後ろのモニターに映し出され、興奮は最高潮に。さらにタッキーは90度の垂直という辛い体勢や、逆さ吊り状態で太鼓を打っていました。公演を重ねるごとにどんどん技が進化していき、超人の域に。オリンピックにぜひ腹筋太鼓という種目を作ってほしいです。

 滝沢歌舞伎は興奮シーンばかりではありません。突然幽霊たちが練り歩いて会場がお化け屋敷となったり、巨大な仮面に悪魔のタッキーと天使のタッキーがプロジェクションマッピングで映し出される葛藤シーンや、舞台上でのお化粧、八百屋お七の人形浄瑠璃、影絵で動物を表現する牧歌的な演出、ヤン・リーピンの「孔雀」ばりの鶴王の舞、唐突な書道コーナー、タッキーメドレー、義経伝説の殺陣、など癒しと興奮が交互に訪れ、自律神経を刺激します。フライングもバラエティーがあって、メンバー同士の手つなぎ萌えフライング、タッキーの筋肉だから可能な片手フライング、それから1mくらいふわっと上がってすぐ降りる寸止めフライングもありました。ジャニーズの舞台に行くと、現実世界の男性がフライングしないのが物足りなくなってくるので危険です。
今回の舞台は、タッキーが二階のお客さんの方を見てフライングするパターンが多くて、どの席の人でも楽しめるようにという心遣いを感じさせました。そして3時間のあいだに、忠臣蔵から鼠小僧、義経まで日本史を勉強できた感も。興味を持つきっかけにもなります。学生さんは試験前に滝沢歌舞伎で予習できるというか、「歴史の勉強に行ってくるね」と親御さんに報告しても、あながち嘘ではありません。大人世代も、日本の良さを再発見できる舞台です。そして肉体的には血の巡りが良くなったような、健康効果も期待できます。

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辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。

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