【連載第22回】アートセレブのたしなみ/五百羅漢図展で宇宙と交信

森美術館で開催されている「村上隆の五百羅漢図展」。六本木の磁場を浄化しそうな、達磨や五百羅漢、神獣の絵の放つ霊力に圧倒されました。「円相」が正円に近いのにも、村上隆氏の人格が完成されているのを感じます。このまま教祖になれそうな……。作品制作の指示書まで公開されていてサービス精神にも感じ入りました。写真撮影も可能で全長100mの巨大な絵を背景に記念写真を撮る人が多数。そして「欲望の炎―金」の金色に輝くドクロ、「死の淵を覗き込む獅子」で積み重なるドクロや「慧可断臂 心、張り裂けんばかりに師を慕い、故に我が腕を師に献上致します」の腕の背景にびっしり敷き詰められたエンボス状のドクロ、「円相」シリーズが描かれたキャンバス上の無数のドクロなど、ドクロモチーフが「メメントモリ」の気配を漂わせていました。ちょうどオープニングの日、ドクロのような形の小惑星2015 TB145が地球に接近していて、村上さんの思念が宇宙に届いたかのようです。宇宙からドクロを召還するとはさすがです。六本木ヒルズが宇宙とつながった展示でした。

 

オープニングの日、会場で、まず目に入ったのが五百羅漢風のコスプレの人々。「五百羅漢図」の前では田中泯によるダンスパフォーマンスがあり、仙人のような枯れた雰囲気だったのですが、羅漢コスプレの若者はわりとギラギラしていました。龍や白虎コスプレの若者もいて、異形の者であふれるハロウィン直前の森美術館。今、一番COOLなのは五百羅漢、と洗脳されかけました。でもそんなインパクト大のコスプレを前にしても、作品が負けていないのがさすがです。

 

 レセプション会場に入ると、主催者やキュレーターの三木あき子氏、美術史家の辻惟雄氏などがスピーチしていました。メディア関係者、多数のご招待客が集まったそうで、人口密度が高いです。三木さんのお話によると、村上さんは今年の夏まで「僕は日本で嫌われているから日本で展覧会やるのは嫌」と悩んでいたそうです。目立つ者は叩かれる日本の風土ですが、ドクロ小惑星が接近したように、宇宙では人気があるのではないかと思われます。レセプションでの村上さん(羅漢コスプレ)のスピーチは、関係各者への謝辞のあと「セルフィーを撮るためこの格好をしています。あとでバンバン撮ってください」と、あっさり終わりました。以降は神隠れしてお姿を確認できず……。

 

 そのあと会場にセレブがいるかチェックしたのですが、某女優さんと家族、脳科学者茂木健一郎氏と弟子の植田工氏くらいしか見つけられず……。後日知ったのですが、「ゆず」のゲリラライブが「五百羅漢図」前でおこなわれたそうです。知らずにレセプション会場にいた人々は、私を含め「欲望の炎ー金」の作品で煩悩が活性化されたのか、トレイを持ったウェイターに群がり、一瞬で食べ物がなくなっていました。宗教パワーを取り込んだ芸術の力は半端ないです。


村上隆の五百羅漢図展
会  期:2015年10月31日(土)〜2016年3月6日(日)
会  場:森美術館
開館時間:10:00〜22:00(火曜日は10:00〜17:00)
     入館は閉館の30分前まで。会期中無休

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辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。

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