紀尾井町にこんな広大な土地があったことにも驚いた、「Volez, Voguez, Voyagez - Louis Vuitton(空へ、海へ、彼方へ ── 旅するルイ・ヴィトン)」展の特設会場。ルイ・ヴィトンの旅にちなんだトランクやバッグ、アート作品などが一堂に会した貴重なアーカイブ展です。
オープン前日のレセプション会場に入ったとたん、「コマンタレブ~」とフランス語を流暢に話す舛添都知事が目の前にいたり、「ケイト・ブランシェットがいた!」という声や、中田英寿、ソフィア・コッポラ、長澤まさみ、少女時代のユナとすれ違ったりで(敬称略)、セレブ酔いしそうな空間でした。
興奮さめやらぬままに足を踏み入れた最初の部屋には創業者、ルイ・ヴィトンの肖像画が掲げられていて、ご利益ありそうで、思わず目礼。トランク作りに使われる木材の道具が厳かに展示されていて、壁も合わせて木材でしつらえられていました。どれだけ財力が……。昔の革工房、縫製工房などの写真が展示されていたのですが、高級ブランドが生まれる場にふさわしい、清潔で整理整頓されている波動の高い空間でした。やはり片付けが運気を高める基本なのかと反省させられます。
次の部屋には、1800年代から最近までのクラシックなトランク並んでいました。帽子やワードロープ、靴などが収められたヴィトンのトランク。長手袋を収めるためのトランクとかリネン用の通気性の良さそうな特製トランクとか、◯◯夫人所有、といかにも貴族風の名前が説明に添えられていたりで、優雅さと格差感に溜息しか出ません。大きめのトランクは、中に入って住めそうです。そしてそのまま上流階級の家に運ばれて行きたいです。
セレブ感が極まっていたのは「ヨット」の旅コーナー。ヨットイコールお金持ちの象徴ですが、この部屋にはヨットの大きな帆が張られ、庶民も少しヨット疑似感が得られるようになっていてありがたいです。並んでいる中に、大きめで取っ手が短い、珍しいデザインのバッグがあるなと思って眺めていたら、ヴィトンのスタッフの方に「あちらはスティーマー・バッグと言って、船の旅の間、洗濯物を入れて客室のドアにかけて、クリーニングしてもらうための物です。折り畳んでトランクの中に入れられます」と教えていただき、またもやヨーロッパの上流階級のスケールを思い知らされました。汚れた洗濯物を入れるためのヴィトン……。汚れ物といっても麻とかシルクとか素材自体が上質なんだと思いますが……。
次からの部屋でも自動車の旅、空の旅、列車の旅、と様々な旅行用トランクが並んでいました。上流階級は身だしなみがマストで、男性用の様々なハサミを入れられるトランク(つい鼻毛用はどれか探してしまいました)、多種多様な靴ブラシ用のトランクなど、もともとの運気をさらに高める努力を怠らない、美学が貫かれた上質なライフスタイルに感じ入りました。「余暇の時間」「絵画用トランク」のコーナーでは、作家のための本とタイプライターが収まるトランク、インクとペンと紙が引き出しに入ったトランク、本棚として大量の本が入ったトランクなどが展示。趣味自体ノーブルですね……。日本との関わりについての展示部屋では、白洲次郎や板垣退助が愛用したトランクが印象的でした。きっと誰もが、(板垣死すともヴィトンは……)と心でつぶやいたことでしょう。
最後の部屋ではクラフツマンシップを見せるため、現地から来た職人の方々が、革細工の公開作業をしていました。ロゴを型押ししたり、色を塗ったり……。やはり貴族の生活よりも職人さんに親近感というか共感してしまいました。
職人さんコーナー。弟子入りしたくなりました……。
「Volez, Voguez, Voyagez – Louis Vuitton」
(空へ、海へ、彼方へ──旅するルイ・ヴィトン)展
会期:4月23日(土)~6月19日(日)
場所:東京都千代田区麹町5丁目
入場無料
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漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。