2016.11.30

マリー・アントワネットのセレブカルマ #12

森アーツセンターギャラリーにて来年2月まで開催される、「ヴェルサイユ宮殿≪監修≫マリー・アントワネット展」。漫画や小説、劇や映画などでその波乱の人生を描かれてきたフランス王妃です。きっと誰もが思い入れがあるマリー・アントワネット。前世アントワネットと自称していた女優さんもいましたが、人のことは言えず、私も前世マリー・アントワネットとまではいかないにしろフランス貴族だったかもしれないと妄想しています(女中でもいいです)

今回の展示ではそんなフランス王族の華やかでゴージャスな生活ぶりも披露されています。肖像画のマリー・アントワネットのハイクオリティーな衣装もすごいですが、目玉は王妃の部屋の再建。居室、浴室、さらにプロジェクションマッピングで投影された図書室など……。ベッドはもちろん天蓋付きですが、バスタブにまでもレースの天蓋が。細部まで凝った布が使われ、寝室用の壁布はランパ織だそうで、いかにも高価そう。ただ部屋が広すぎて、女中に服を脱ぎ着させられたり、入浴の手伝いをしてもらったりする間、さぞ寒かったことでしょう。部屋にはマリー・アントワネットを思わせる、顔がない人形が置かれていて、霊っぽかったです。





霊なのか残留思念か……アントワネットの人形が半透明な感じで存在しています。

宮殿でゴージャスライフを営み、最先端の髪型やドレスで注目を集め、ファッションリーダーでもあったマリー・アントワネット。今でいうオタ系王のルイ16世が奥手でなかなか手を出そうとせず、セックスレスに悩んだ時もありましたが、なんとかやることはやって子どももできました。マリー・アントワネットの地位も安定してきたところ、「首飾り事件」が発生。何度説明を読んでも理解できない複雑な事件ですが、頼んでもない高価で成金趣味の首飾りをマリー・アントワネットが発注したことにされ利用されてしまったようです。それから次第に運命にほころびが……。贅沢さが民衆の怒りを買い、今の朴大統領と取り巻きのように、バッシングの標的に。マリー・アントワネットを化け物のように描いた風刺画も展示されています。王室の良い面だけをフィーチャーするのではない、ニュートラルな展示ですが、それだけに後半は涙なくしては見られません。

マリー・アントワネットはルイ16世から贈られた離宮、プチ・トリアノンで過ごすようになります。陰謀渦巻く宮廷から逃避できる隠れ家です。ライトアップされた幻想的で美しい庭園を描いた絵を見て、前世を思い出す人もいるかもしれません。親しい友人だけを招いていて、そこにはマリー・アントワネットの心の恋人、フェルセンもいました。ベルばらでたしか逢瀬のシーンが……。

それにしても、マリー・アントワネットの気晴らしのために庭園をプレゼントして、自由にさせ、静かに見守っている夫はできた男性だったのでは、と、この展示を見ていたらルイ16世の株が急上昇。浮気もしない、無駄遣いもしない、ストイックで温和で理想の夫です。人間として器が大きいです。とくに、最後ギロチンにかけられる前の態度は立派で、「死刑宣告した人を許すように」とか言ったそうで、泣けました。



もちろんフェルセンも彼なりのやり方でマリー・アントワネットに尽くしていました。彼女と家族たちを助けるために裏でいろいろ動いていたのですが、結果的にそれが裏目に出たような……。下手に逃亡しようとして見つかってしまったので、決定的に国民の怒りを買ってしまいます。マリー・アントワネットは牢獄に閉じ込められて、有罪判決を受けて、ギロチンへ。最後まで毅然として誇りを失わなかった彼女ですが、死刑台への階段を登る時に靴が脱げてしまい、誰かが保管したその靴が展示されていました。逆シンデレラのようなエピソードです。その靴からは特に何の恨みや哀しみの念も感じられず、運命を受け入れた王妃の強さに感動しました。闇があるからこそ光が、そして光があるからこそ闇が美しいのでしょう。やはり一般人には背負いきれない激しすぎる人生です。

ヴェルサイユ宮殿≪監修≫ マリー・アントワネット展 美術品が語るフランス王妃の真実
期間:~2017年2月26日(日)
時間:10:00〜20:00(火曜日は17:00まで・入館は閉館の30分前まで)
場所:森アーツセンターギャラリー
   東京都港区六本木6-10-1
http://www.ntv.co.jp/marie/

辛酸なめ子プロフィール画像
辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。

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