古代文明好きとしては外せない「古代アンデス文明展」。国立科学博物館で2月18日まで開催しています。アンデス文明は紀元前3000年頃に起こり、スペイン人に征服される16世紀まで続きました。ナスカの地上絵、インカ帝国などもアンデス文明ですが、文字を持たなかったのでミステリアスな部分が多いです。
紀元前3000年頃、エジプトのピラミッドの建設と同時期には、カラル遺跡として階段構造のピラミッド状建築物が建てられていました。ナスカの地上絵と同じく、宇宙人が関与していた説を支持したくなってしまいます。ナスカの地上絵については、「蜃気楼の幻の湖から水をくもうとして作った用水路」とか「雨乞いの儀式に関するパレードが絵のラインをたどって行われた」という仮設がありますが、ちょっと無理があるような……。
アンデス文明のワリ文化とティワナク文化で信じられていた「杖の神」という神様も宇宙人っぽいです。と、つい古代文明と宇宙人を結びつけてしまいますが、古代アンデスの人々が意外とエグい儀式を行っていたことを知り、現実逃避したくなったというのもあります。
もちろんシカやリャマ、ネコ科動物などをかたどったかわいい土器もあります。しかしよく見ると、土器のアシカや人間の目がイッちゃっているというか、正気に見えません。と思ったら、コカの葉を入れるバッグとか展示されていて、やっぱりと思いました。また、コカの葉を口に入れて噛んでいると思われる男性の顔のレリーフもあります(目はうつろ)。でも、コカはまだかわいい方かもしれません。古代アンデスの人々は、斬首も大好きだったようです。
時々展示物に「首級」という表記が出てきて気になっていたのですが、「首級(しゅきゅう)とは斬られた首のこと。人間の首に力が宿っているという信仰は、おそらくアンデス文明どの時代にも共通のもの」と説明にあって、サーッと血の気が引きました。首は儀式に用いられ、首から植物の芽が出ている絵もあるとか。「4つの首が描かれた土製内湾鉢」は一見POPなイラストですが、近づいてみると不気味さが漂ってきます。
「唇が黒く、目は上を向き、口は開いている」ので、首級か奉納用の首を描いたとされています。首を奉納……怖すぎです。文字を持たないで生きていると理性で止めるとかできなくなってくるのでしょうか。コカのトリップ作用もありそうです。
「自身の首を切る人物の象形鐙型土器」なんてものもありました。「進行中の殺傷行為」を描いた珍しい土器だそうです。男性がのけぞっていて、首の切れ目から食道とか気道の断面が見えて超リアル。
シャーマンの儀式か何かなのでしょうか。それを土器にして使用するセンスもすごいです。咽をかき切られるのを待つ裸の捕虜の土器もあり、このデザインに需要があったのか謎です。
自分で自分の首を斬るなんてSMでも聞かないハードすぎるプレイです。怖くて何度も見てしまいました。ちなみにこの原稿を書いている時、何か引き寄せの力が働いたのか、このアンデス文明展の変顔コンテスト審査員を依頼されました。よろしかったらぜひチェックしてみてください。
他にも、切断された首が並んだデザインの「十四人面金冠」や、ドクロとシカの「シカを背負う死者をかたどった鐙型注口土器」とか、死体の方が積極的な「死んだ男性と生きている女性の性行為を描写」した土器なども出てきましたが、感覚が麻痺して普通に受け入れられるようになってきました。古代アンデス人、かなりハードなプレイをしていたようです。
そして最後に満を持して、ミイラの展示室が出てきます。乾燥地帯なので、遺体はすぐにミイラ化。インカの人たちは死者と共存して暮らしていたようです。生きていたときと同じように食べ物を供えたり服を着替えさせたり。布でくるまれた男児のミイラにはネズミのミイラが、少女のミイラには、壷や櫛が供えられていました。生け贄の儀式でミイラにされる人々もいたそうです。そしてインカ帝国の安泰を祈願したのに、結局少人数のスペイン人に滅ぼされ……生け贄や首を斬られた人の怨念も働いている気がします。
超かわいい土器もあります。こちらは「ネズミ型象形鐙型土器」。隣のフェイスペイントした像も、現代にいてもおかしくない脱力感漂うキャラ。
スペイン人は、アンデス文明の黄金の遺物を略奪し、溶かしてしまったそうです。若いカップルが「スペイン人にパクられたんだ」「本当クソだな」と、スペイン人に怒っていました。巨大な帝国もいつかは滅ぶのです。でも、これだけ後世にインパクトを残せたのでアンデス文明はすごいです。もしかしたら途中までサポートしていた宇宙人も、斬首にドン引きして去って行ったのかもしれませんが……。
アンデス文明で使われた情報記録システムであるキープ。最近、ハーバード大学の学生が解読に成功したなんていうニュースもありました。結び目の方式が、国勢調査に記録された社会的地位と関係があるという説が出ています。
「古代アンデス文明展」期間:~2018年2月18日(日)
時間:9:00~17:00(金曜日、土曜日は20:00まで。入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(2/12(月)は開館)
場所:国立科学博物館
東京都台東区上野公園7-20
http://andes2017-2019.main.jp/andes_web/
漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。