28組のアーティストに「あなたのドラえもんを作ってください」と依頼し、それぞれの技法でドラえもんワールドをアートに昇華させた展示「THE ドラえもん展 TOKYO 2017」が、森アーツセンターギャラリーではじまりました。日本人で「ドラえもん」が嫌いな人なんているのでしょうか? 老若男女が楽しめそうな国民的展示にお伺いしました。
入ってすぐの展示室にあったのは、村上隆氏の作品「あんなこといいな 出来たらいいな」。スーパーフラットな花とドラえもんのキャラがPOPで華やかです。絵の中に藤子・F・不二雄先生が2人描き込まれているそうで、探す楽しみも。とりあえず一体見つけました。ただそれより衝撃的だったのは、全裸のしずかちゃんがさり気なく描かれていること。「ドラえもん」のマドンナしずかちゃんですが、この展示では、しずかちゃんがリビドーのはけ口になって好き放題されているというか、パンチラにとどまらない禁断のエロスを漂わせています。
鴻池朋子氏の「しずかちゃんの洞窟」という作品も、しずかちゃんへの願望があられもなく表現されていました。革をはぎ合わせたキャンバスに漂う動物たちとキャラクター。のび太が全裸で浮かんでいます。そして目がギンギンのオオカミの口に、全裸のしずかちゃんがくわえられていました。
初日の内覧会で、鴻池氏は「しずかちゃんのプリっとした体を甘噛みしたい」と語っていました。鴻池さん、いい意味でかなりヤバいと思わせられたのは、隣のブースから流れてくる、ドラえもんの歌です。「家の中でドラえもんを実感できなかったので、雪山に首まで埋まってドラえもんの歌を歌ったら手応えを感じられました」とのことで、雪山から顔だけ出し声の限りに歌う声が流れ続けていました。最後は「ドラえも~ん!!!」と救いを求めて叫ぶ声が。しかしドラえもんは助けにこないというのが現実です。喉を酷使して歌っているからか、だんだん大山のぶ代さんのドラえもんの声のようなしゃがれ感が出てきていました。人間の絶叫というのはいつまでも耳に残り続けるということが、この作品で実感できました。
しずかちゃん推しの作品は、会田誠氏「キセイノセイキ~空気~」の霊体シャワーシーンのような絵画、坂本友由氏の、びしょぬれのリアルな美少女しずかちゃんを描いた「僕らはいつごろ大人になるんだろう」などもあって、しずかちゃん大人気です。そんな中ドラミちゃんに着目し「依然としてジャイアンにリボンをとられたままのドラミちゃん@真夜中」という涙目のドラミちゃんを描いた奈良美智氏の着眼点はすごいです。
佐藤雅晴氏の「かくれんぼ」も印象に残った作品です。実写とアニメの融合で、街中や学校などをゆっくり歩くドラえもんの後ろ姿を追っていく、ノスタルジックな映像。ドラえもんの鈴の音に猫が反応するシーンに萌えました。萌えといえば、梅佳代氏「私の家のドラえもんの写真」の、祖父がドラえもん帽をかぶっている作品もかわいかったです。蜷川実花氏が美少女とドラえもんのデートシーンを撮影した「ドラちゃん1日デートの巻 2017」も、うらやましいラブラブぶりです。最後、増田セバスチャン氏の2.6メートルの巨大なドラえもんぬいぐるみに、カラフルなおもちゃのパーツが貼付けられた作品にも圧倒されました。どの作品もドラえもん愛にあふれていました。
作品の解説をする増田セバスチャン氏と巨大ドラえもん。増田さん、ドラえもんに波長を合わせて制作した効果かドラえもん並に肌がツルツルです。
鴻池朋子氏ご本人と「しずかちゃんの洞窟」。美しい女性がしずかちゃんへの禁断の思いを吐露していました。
福田美蘭氏の「波上群仙図」は仙人の姿でドラえもんが描かれています。安定の格調の高さです。
ドラえもんには人をポジティブにする力があります。AIやロボットが人間を侵略するなんて説がありますが、ドラえもんだけはずっと人類の味方だと信じています。助けを求めて叫んでも来ないかもしれませんが、ドラえもんは、私たち日本人を子どもの頃から見守り続け、ダメなのび太を鼓舞していたように、ずっと応援してきてくれたのです。そんな守護霊のようなドラえもんへの感謝の思いが高まりました。
各アーティストのグッズも充実。写真下は、脱力感漂う、しりあがり寿氏の描いたドラえもんアイテム。
「THE ドラえもん展 TOKYO 2017」期間:~2018年1月8日(月・祝)
時間:10:00~20:00( 火曜日は17:00まで。入館は閉館30分前まで)
休館日:無休
場所:森アーツセンターギャラリー
東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階
http://thedoraemontentokyo2017.jp/
森村泰昌氏×コイケジュンコ氏の「時を駈けるドラス」には、ドラえもんの漫画のセリフが使われていて「人間にもすきとおった部分がちゃんとあるんだから」など、格言も結構あります。
漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。