「他の会場にはない強みは、松本でしか体験できない空気で草間先生の作品をごらんいただけることです」と学芸員の方がおっしゃっていました。生誕の地で少女時代から現代にいたるまでの作品を見ることができます。山に囲まれて空気が澄んでいるので、透明な心で作品と向き合えます。「導入で草間先生の心に飛び込んでいただき、生涯をたどるという構成です」 という話で期待が高まります。三階の第一会場へ。「命」というオブジェが鎮座し、突起が誘うように伸びていて、草間ワールドにいざなわれます。
最初に体感型のインスタレーションがきて心をつかまれるという構成が巧みです。 ブラックライトで部屋中の物にドットが浮かび上がる部屋「I'm Here,But Nothing」は、ドットの異次元に迷い込んだかのよう。自分も粒子化して消えてしまいそうです。部屋の中、テレビ画面には草間先生の若い頃のお姿が写っていたり、草間グッズがさりげに置いてあったりと、探す楽しさで現実に戻されました。
カラオケルームでもなかなかないスペクタクルな演出。草間先生はドットの魔術師です。
続いて両側に赤い突起がひしめきあう通路へ。おなじみの作品で安心感があります。「ここはホッとする」とつぶやいているおじさんがいました。男性には親近感があるフォルムだからでしょうか。
楽しい世界のあとは、少女時代の草間彌生の作品の部屋へ。松本で描かれた5歳の時の作品には既にドットが描かれ、早くも才能がほとばしっています。若い頃の作品は暗めの色が多いですが、それも独特の魅力が。28歳の頃NYに渡ってから、作品が突き抜けていきます。「無限の網」シリーズで注目を集めた草間先生。網やドットを描きまくります。
音声ガイドには草間先生の生声コメントが。
「NYに行って死にものぐるいだった。窓壊れてるし、風寒いし……」
NYで創作に励むも、体調が悪くなり帰国。暗めの作風のコラージュ作品を制作したりしますが、国内でも評価が高まってゆき、1993年にヴェネチア・ビエンナーレ日本代表になってから、世界の草間としてのゆるぎないポジションを築いていきます。
「ピンク・ドッツー星の墓場で眠りたい」「INFINITY NETS CBUX」「レッド・ドッツ」など、網やドットの大作に包まれる空間。
草間彌生といえば、ドット、突起、そしてかぼちゃ、とアイコン的な重要な作品も多数展示。
終盤のコーナー「南瓜へのつきることのない愛のすべて」では、かぼちゃに埋まる体験ができます。
作品を観てトリップしそうになりながら、音声ガイドを再生すると、草間先生のポエム朗読や歌が流れ出します。
例えば、亡き父母に捧ぐ歌「君は死して今」は「ふたたびめぐりあうこともなく~わか~れ~る~♪」
「マンハッタン自殺未遂常習犯の歌」「抗うつ剤~飲んで去ってしまう~錯覚の扉~打ち~破る~♪」
など、霊妙な歌の数々が。
音程にゆらぎがあり、童謡のような旋律で、か細いながらも一度聞いたら脳に刻みこまれそうな歌声です。また、詩やメッセージ朗読も。
「私がどんなにすばらしい生き様を足跡として刻印してきたか(神に)知ってもらいたいから」
「苦学して登りつめた 今日のこのわたし。」
と自分をたたえるフレーズも草間先生なら許されます。実際、人間の力を超えたすばらしい作品ばかりです。
圧巻なのは、2009年から描いている「わが永遠の魂」シリーズ。120号の大型キャンバスに、2、3日に1枚のペースで描かれていてすごい体力と尽きせぬ創造力です。
作品のタイトルも「落涙の居城に住みて」「視覚の集まり」「神のおきどころ」など詩のような「わが永遠の魂」シリーズ。
プリミティブでポップでカオスで、人間の生き様をそのまま表現して、宇宙に地球人を知らしめているような作品です。
「次々とあふれ出てくる私の創造力」
「アイデアがいくらでも出てくる」という生ボイスのお言葉に戦慄。当分、草間彌生ひとり勝ち状態は続きそうです。
草間先生の「私の人生はこれから始まろうというとき」というセリフに対しインタビュアーが「えっこれからですか……」と思わず聞き返した音声が入っていました。
そういえば長野は日本一の長寿県。こうしている間にも草間先生が巨大なキャンバスに描いている、と思うと、焦りとともに鼓舞される思いです。松本市美術館は、不老不死のパワースポットでした。
最後、草間グッズが充実しているショップで物欲の無限の網にとらわれます。
「草間彌生 ALL ABOUT MY LOVE 私の愛のすべて」期間:~2018年7月22日(日)
時間:9:00~17:00(土曜日は19:00まで開館。入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(4月30日、5月7日、7月16日は開館)
場所:松本市美術館
長野県松本市中央4-2-22