2019.12.19

死後セレブ、ミイラ43体と会える展示 #50 #ミイラ展

上野に世界各国のミイラが43体も集結した話題の展示「特別展 ミイラ ~『永遠の命』を求めて」。一瞬及び腰になってしまう「ミイラ」というテーマですが、平日の昼間に行ったら予想を超える混雑ぶりでした。

ミイラ一体の展示ケースに常に十数人が集まっているという……人の隙間から垣間みる感じで、意外な人気ぶりに驚きました。やはり人は心の奥に死への興味が……。客層は若めで、男性一人で来ている人も結構いたり、防衛大学校の学生らしき制帽をかぶった集団も。ここまでミイラが人々を惹き付ける理由は何なのでしょう。


展示は地域ごとに「南北アメリカのミイラ」「古代エジプトのミイラ」「ヨーロッパのミイラ」「オセアニアと東アジアのミイラ」に分類されています。国立科学博物館の展示は今まで撮影OKなことが多かったのですが、ミイラということもあって今回は一般会期中は写真撮影NGでした。遺体への畏敬の念を持ちながら一体一体じっくり拝見し、その生涯に思いを馳せたいです。

「南北アメリカのミイラ」の部屋に最初に展示されていたチリの「チンチョーロ文化のミイラ」は、なんと紀元前3200年のもの。子どものミイラが静かに横たわっていますが、5200年以上前なのでおそらく成仏していると思われ、安らかな気持ちになります。頭部が大きくて宇宙人っぽいのが気になります。

死後セレブ、ミイラ43体と会える展示  の画像_1
エジプトの「ペンジュの棺」のレプリカに入って記念写真が撮れるコーナーがありました。前世ミイラになったことがある人なら何か思い出すかもしれません。

そしてペルーの「下腿部を交差させた女性のミイラ」は脚があぐらの状態で横たわっていてヨガのポーズのよう。3Dスキャンで調べたら乳歯を2本握っていたというのが謎めいています。棒に糸を巻いたものも一緒に入れられていたとか。ペルーの「チャチャポヤのミイラ」の中には、毛糸の玉のようなものを持っている人がいました。

そこで思ったのは、多分糸はあの世と現世をつないでいて、亡くなった人がいつでも糸をつたって戻って来られるように、という意味なのかもしれません。ユルいタッチの顔が刺繍されてユーモラスな「ミイラ包み」など、南米のミイラ文化はどこか心暖まります。

死後セレブ、ミイラ43体と会える展示  の画像_2
かわいいミイラ包みはぬいぐるみやキーホルダーになって売られていました。癒し系ミイラは死への恐怖を和らげます。

ミイラと言えばエジプト。死者の復活を祈り、4000年近くミイラ作りが続けられていたそうです。ミイラの語源になったと言われている「ミルラ」のしめやかなアロマをかぎながら「古代エジプトのミイラ」を鑑賞。ミイラ作りの複雑な工程が紹介され、マトリョーシカのように、人の形の棺に何重にも入れられたミイラもありました。ここまで懇ろに弔われていたらちゃんと成仏できたことでしょう。

ただ、人間の性は恐ろしいもので、中世のヨーロッパではミイラを粉末にして薬として服用する風習があったとか……。盗掘されたミイラは、薬になったり、コレクターが収集していたそうです。ミイラをはじめて作ったというアヌビス神の祟りが発動してもおかしくありません。

ここまで「南北アメリカのミイラ」「古代エジプトのミイラ」は、死者への敬意を感じられる「人工ミイラ」だったので安心して見られました。油断できないのは、放置された遺体が湿度や気温など自然の条件でミイラ化した「自然ミイラ」です。「ヨーロッパのミイラ」コーナーには、そんないわくありげなミイラたちが。

「イデガール」と名付けられたミイラはオランダのイデ村で発見されました。16歳と推定される少女で紀元前1世紀に亡くなりました。復元の予想の顔が悲しげですが、処刑かいけにえにされたようです。

死後セレブ、ミイラ43体と会える展示  の画像_3

今回の展示でフィーチャーされていたのは、アルプスのエッツ渓谷で発見された「アイスマン」。なんと5300年前の男性で、発見された場所から「エッツィ」という愛称がついています。行き倒れで凍死したと考えられていたのが、調べたら左肩に矢じりが、肋骨に折れた痕があり、殺されたという説が濃厚です。亡くなる直前にはシャモアやシカの肉を食べていたという元祖肉食系男子。復元された生前のエッツィはワイルドでなかなかかっこよかったです。

そしてさらにショッキングだったのは、展覧会のチラシでシルエットになっている「湿地遺体(ボッグマン)」。約2100~1800年前に亡くなったとされる二体のミイラで、密着していて男女のカップルかと思われていましたが、調べたら二人とも男性だったという……『おっさんずラブ』ミイラ編のようなカップリング。二人とも殺されたそうです。泥炭地で骨が溶けて皮状態になった変わり果てた姿は、なかなかショッキングな見た目でした……。「遺体」だけど「ミイラ」というジャンルだと思うことで、なんとか平常心で鑑賞できます。

自然ミイラにゾクゾクしてきたところ、日本のミイラ、即身仏たちの衆生を救おうというバイブレーションに癒されました。弘智法印 宥貞様のミイラの優しい笑顔が忘れられません。即身仏が浮かばれない魂たちを慰めてくださっているのでたぶん安心です。どうぞ安らかに……。
 

ミイラ展

期間:~2020年2月24日(月・休)
時間:9:00~17:00 ※金曜・土曜は20:00まで
また、11月3日(日・祝)は20:00、11月4日(月・休)は18:00まで
※入場は閉館30分前まで 

休:月曜日(月曜日が祝日の場合は火曜日)
12月28日(土)〜1月1日(水・祝)
ただし2月17日(月)は開館 ※開館時間や休館日等は変更になる場合がある
場所:国立科学博物館(東京・上野公園)
東京都台東区上野公園7-20
https://www.tbs.co.jp/miira2019/

辛酸なめ子プロフィール画像
辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。

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