A 私が描く作品は、すべて夢(夜寝ている時にみる夢です)や瞑想の中で見えるビジョンです。不思議なのですが、夢の中で、自分がまだ描いていないのに完成した作品が見えるのです。ですので、私はそれを絵にする作業をしているだけなんです。でも、絵を描いている時は、あまり記憶がなく、時間が止まって、何かが私の中を通って描いているような感覚になります。後から自分が描いた絵を見ても、どうやって描いたのか覚えてないことがほとんどです。夢や瞑想で見るビジョンは、この世に存在しないような強烈で美しい色彩です。
A ニューヨークのパーソンズ美術大学に通ったのですが、3年生の頃から、黒い地に絵を描くようになりました。それまで線画ばかり描いていたのですが、何を描いても整ってしまうことがつまらなくなり、どうやったら線を描かずに絵を描けるか?と考えて、黒地に色を重ねて、「線を残す」(つまり、線は黒い表面の色)という画法をはじめました。私は不完全なものに美を感じますので(ワビサビのコンセプトに近いかも知れません)、自分で線をコントロールしない画法が、とても気に入りました。また、黒い表面に絵を描くと、実はもうすでに存在しているけれど、暗いので見えなかったものが、光をあてられることによって、生命感を発する……という感覚もあります。
A 私はチベット仏教を以前からお勉強しているのですが、観音菩薩(チベット語では、Chenrezig/チェンレジと呼ばれています)に特にご縁を感じていて、今年色々とあって辛い思いをしている時に、インドはヒマラヤにいらっしゃる私の恩師が、「観音菩薩の瞑想をしてごらんなさい」とアドバイスを下さったのです。込み入った話になりますが、これは密教の瞑想方法で、「グルヨガ」とも呼ばれるヴィジュアリゼーションのメソッドになります。
A 作品『ラプチャー』の女性の至福の表情のような空間に達することは、ごく稀ですが、時々あります。自然の中でメディテーションをしたり、静かに呼吸をしたりしている時に、「すべては完璧である」ということを感じる瞬間があります。これは、すべてがうまく行っているとか、苦しいことが無い、という意味ではなく、人生や世界で起こっていること全てを受け止めて、「昨日」や「明日」でなく、「今」に集中することによって、心の平和を育むことができるという意味です。容易なことではありませんので、毎日こんなモーメントがあるわけではありません。ごく普通の日は、雑用に追われ、真我を忘れ、エゴ/自我に振り回されている自分との葛藤です。 ゴールは、いつの日か、この女性の表情のような空間に達して、人生そのものが永遠のラプチャーとなることです!
『心の掟 Anchor of My Heart』世の中で何が起ころうと、流されずに自分の中に平和を保つ……そうした力は誰もが持っている、というポジティブなメッセージがこめられている作品
A 1990年代終わりに、夢の中で「チベットのためにできることをしなさい!」という命令の声を聞いたのです。それまでチベットのこともダライ・ラマ猊下のことも、何も知りませんでした。夢を重視している私は、これをお告げとしてとらえて、それ以来、チベット難民孤児たちのために、教育絵本を作って寄付を続けています。それまでは、ニューヨークでも超トップの画商たちからかわいがられ、絵も売れていましたが、ドロドロしたコマーシャルアートの世界が苦手だった私は、幸せではありませんでした。