50年の時を経ても色あせない魅力を持ち、読者を18世紀フランスに連れていってくれる名作『ベルサイユのばら』#81

東京シティビュー(六本木ヒルズ森タワー52階)で、「誕生50周年記念 ベルサイユのばら展  ーベルばらは永遠にー 」展が開催。入ってすぐのところが撮影可能エリアで、ベルサイユ宮殿を模したアーチ状の柱の奥には、フェルゼンとアンドレ、マリー・アントワネットとオスカルとの撮影スポットが設けられ、列ができていました。

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どんな場所でも『ベルばら』の登場人物がいれば、ベルサイユ宮殿のような空気感に。

さらに進むと、東京のランドスケープを背景に、オスカルやマリー・アントワネット、さらにルイ16世の姿が。等身大の板人形ですが、つい駆け寄りたくなる存在感です。ひっそりとたたずむロザリーの姿に、ここで再会できるなんて!と感動に浸りました。不遇な人生だったロザリーが、微笑みを浮かべていました。そういえばこの漫画で個人的に一番感情移入したキャラかもしれません……。その奥ゆかしい存在感に心惹かれます。

モニターには、オスカルとアンドレが愛を確かめ合う重要な漫画のシーンが流れていました。テンションを高めながら、展示ゾーンへ。

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並んで撮影できるフォトスポット。幸せで存命だった頃の4人が麗しいお姿で……。

この壮大な物語を築きあげた漫画家の池田理代子さんのコメントが紹介されています。当時はとにかく忙しく、おかずは茎わかめと筋子しか食べていなかったら腎臓を悪くして病院に運び込まれたこともあったとか。マリー・アントワネットの「パンがなければお菓子を……」という優雅な発言とは全然違う過酷な制作環境だったようです。それでもあんな優雅な王侯貴族を描けるのはさすがです。

展示は、時代の流れにそって漫画の原稿などが並んでいて、実在の人物やエピソードの説明もあって歴史の勉強にもなります。例えば、オーストリア皇女として生まれたマリー・アントワネットが、フランス王家に嫁ぐシーン。結婚証書にサインをする時に、インクのしみをつけてしまったのが、不吉な伏線となっています(実話)。これと似たようなシーンを最近イギリス王室でも見たような……。チャールズ国王が書類にサインするとき、インクが漏れて指についたと苛立っている動画がありました。イギリスの未来も心配になります。

続いて、マリー・アントワネットがフランス宮廷での人間関係に苦労するシーン。ルイ15世の寵姫でいじわるキャラのデュ・バリー伯爵夫人に、屈辱感に震えながら自分から声をかけます。「きょうは……ベ…ルサイユはたいへんな人ですこと!」というセリフが心に刷り込まれている読者も多いことでしょう。苦手な人と対峙するときに、このシーンを思い出すことで、心が強くなります。

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育ての親をポリニャック伯夫人の馬車に轢き殺されたという、不遇な運命のロザリー。オスカルに密かな恋心を抱きます。

そしてついに麗しのオスカル様が登場。近衛連隊長付き大尉となったオスカルは、アントワネットに仕えることに。肩章のふさ飾りが、改めて見ても素敵です。アントワネットはこのころ、お忍びで参加した仮面舞踏会で、フェルゼンとも運命の出会いを果たしました。

王妃として次第に威光を強めていくマリー・アントワネットですが、「首飾り事件」に巻き込まれたり、多額の衣装費や、プチ・トリアノンでの大金を費やした農家ごっこが取り沙汰されたりで、国民の信用を失っていきます。伯爵夫人のジャンヌがアントワネットの親友をかたって、大司教に高額な首飾りの購入の契約をさせた、という首飾り事件。複雑な経緯が、庶民には理解が及ばないながらも、当時の価格で192億円という首飾りの価格に圧倒されます。血税だと思うと庶民の怒りも理解できます。

この頃、オスカルはフェルゼンへの恋心を秘めていました。しかしアントワネットとフェルゼンの関係を思い、自分の恋心は断ち切ることに。そんなオスカルも実はモテていて、元部下のジェローデルや、衛兵隊のアラン、オスカルを支える幼なじみのアンドレに好意を寄せられていたのです。(全員イケメン)

オスカルは、フェルゼンへの思いにけじめをつけるため、生涯ただ一度、ドレス姿になって舞踏会に出かけます。フェルゼンと踊ることで満足し、気持ちを抑えるオスカルの女心がけなげです。展示会場には、文化服装学院オートクチュール科の学生さんたちが作った「オスカル 生涯ただ一度のドレス」も展示。白くて繊細で美しいドレスで、オスカルのピュアな心を象徴しているようです。バスト87センチ、ウエスト63センチ、ヒップ90センチ、身長178センチ、というオスカルの推定サイズがナイスバディすぎました。衛兵の制服の下にポテンシャルを秘めていたのです。同性としても憧れずにはいられません。

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アンドレの胸に飛び込むオスカル。2人とも横顔が美しいです。

次第に王侯貴族への風当たりが強くなり、革命の足音が聞こえてきます。将軍の命にそむき、成敗されそうになったオスカルを守ったアンドレ。やっと心が通じ合った2人は抱き合って愛を確かめ合いました。アニメ化の時、屋外でのラブシーンに子どもながらドキドキしたことを思い出します。アンドレと一夜を共にしたオスカルは、王室への忠誠を捨てて庶民とともに戦うことを決意。何よりも愛が最優先です。

いっぽうアントワネットは、フェルゼンのサポートを受けながらも逃亡に失敗し、断頭台へ……。彼女を何度も助けようとする、フェルゼンの愛に感動。アントワネットは毅然とした態度で処刑台に上がりました。
愛に生きていれば、ある程度苦難は乗り越えられるのでしょうか。愛情で脳内麻薬を出せるのかもしれません。フランス革命の歴史絵巻とともに、愛に生きた2人の女性の姿が浮かび上がります。

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2022年、完全新作による劇場アニメの制作が決定。目の大きさに少し変化が。

会場の最後には、宝塚の衣装や、2017年に13巻の刊行を記念して掲出された大相撲の懸賞旗、2022年に決定した劇場アニメの製作資料などが展示。『ベルばら』の物語は今後も人々の心の中で続いていく普遍的なコンテンツです。新しい劇場アニメのイラストは、時代に合わせて目鼻立ちのかわいらしさが増していました。読者の一人として、『ベルばら』とともにアップデートしていきたいです。


誕生50周年記念 ベルサイユのばら展ーベルばら永遠にー

期間:~2022年11月20日(日)
時間:10:00~22:00(入館は閉館60分前まで)

会場:東京シティビュー 
東京都港区六本木6丁目10−1 六本木ヒルズ森タワー 52F
https://verbaraten.com/

※チケットは事前予約制(日時指定券)。東京シティビューのオンラインチケット及びローソン店頭で販売。

※開催日時などにつきましては、新型コロナウイルス感染症の状況により変更の可能性もあるので、公式HPなどでチェックしてください。

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辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。

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