大人気開幕中! エネルギーが循環する【香取慎吾】の個展 #83

香取慎吾の大規模な個展『WHO AM I -SHINGO KATORI ART JAPAN TOUR-』が、渋谷ヒカリエ ホールAで開催。2019年の『BOUM!BOUM! BOUM!香取慎吾NIPPON初個展』から約3年ぶりの個展で、作品数も200点とかなりのボリューム。忙しさの中、いったいどこに創作エネルギーが? と驚かされます。尽きせぬ創作欲とバイタリティは40代、50代の希望の星といっても過言ではありません。

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展示に先立って行なわれた内覧会には香取慎吾本人が登場。前回のオリエンテーションからそんなに日が経っていないのに作品を増やし、設営も済ませていて、別の時間軸に生きているのかと思うほどです。

「めちゃくちゃ嬉しいです。絵を描くことが大好きで、子どもの頃からずっと描いてきて。人に見てもらいたいタイプなので、個展が夢でした」と、今の気持ちを聞かれ、率直に答える香取さん。さらにオーラがパワーアップしたようです。

個展の『WHO AM I』というタイトルに関しては、「色んな顔がありすぎて俺って誰なんだよ、っていう思いがあって。少しネガティブな面では、ちょっと辛かったり、苦しかったりした時に下を向いてしまって、自分で何なんだろう?って。アイドルの慎吾ちゃんの面としては言ったことがないんですけど」と、知られざる二面性を感じられる展示のようで、実際「光」と「闇」ゾーンにわかれています。

「今、見てみてもらいたいものは全部出しなよって、僕の中で僕に言われて、今回は闇の部分も見てもらおうと思いました」
ポスタービジュアルも光の香取さんから闇が漏れ出ているようで象徴的でした。くろうさぎが光と闇をつなぐ媒介的存在なのかもしれません。

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 一部をのぞいて写真撮影禁止なのは、「ちょっとした不便さがあることでも、より深い部分まで作品を感じてもらえる」という香取さんのはからいだそうです。

200点というボリュームについては「すごいあるなと思って、自分でもびっくりしていて。本当はもっと飾りたいけども飾る場所がないくらいです」と、話していました。あとで動画を見ると、かなり広大なアトリエで制作していて、やはり計り知れない財力も感じさせます。

描きためたもの以外に、雑誌の依頼などがあって描いたものや、その合間にダンボールに描いた絵も混ざっているそうです。依頼された絵だけでなく、下に敷いているダンボールにも描いてしまうとは、ガチで絵がお好きなようです。苦しんで作品を生み出すタイプではなく、自然と楽しく描けてしまうという、芸術家として羨ましいタイプです。「創作している時間は、ほんと一番楽しいって言うとまずいんですけど、いろんなことやってるんで(笑)。でも一番楽しみですね」

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「闇」ゾーンへの入り口は迷路のアトラクションのようなわくわく感が。

基本ポジティブマインドで描かれているからか、「闇」ゾーンの作品もそんなにドロドロしている印象はありません。複数の人に見られている情景や、目がたくさん描き込まれている作品、ピエロが描かれている作品などは、もしかしたら長年芸能界で仕事をしてきた心境を表しているのかもしれません。人に見られる仕事でストレスを感じても、芸術に昇華することで、解消してきたのでしょうか。洋服の柄の写真をコラージュに使った作品は、ファッショニスタとしての矜持を感じさせました。

「闇」コーナーのところどころに案内人のように登場するのはくろうさぎ。ふと気配を感じたら頭上でブランコに乗っていたり、香取氏が実際部屋で見たことあるだけあって、妙に存在感があります。

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「NO TITLE」©SHINGO KATORI    暗闇に光をともすピエロは、芸能人としての役割を表現しているかのようです。
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「闇」はまるで迷路を体験するような楽しさがありましたが、「光」コーナーは一転、白くて開けた空間でした。香取氏の作品をプリントした多面体のオブジェが祭会場のように天井から下がっています。それぞれ「闇」のコーナーにも「光」を感じさせる作品が、「光」コーナーにも「闇」っぽい作品があり、陰陽のシンボル(陰陽太極図)のように、相反する要素がうずまいて、二元論を超えた世界を体感できます。芸能界など世の中の光と闇を見てきたからこそ至った境地なのでしょう。

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「うちで踊ろう」2020 ©SHINGO KATORI    ステイホーム期間、こんなイメージを心に抱いたらポジティブに乗り切れそうです。

ここ数年の世の中の事象をテーマにした作品もありました。「うちで踊ろう」はステイホーム中のムーブメントをテーマに描いているのでしょうか。家の中から風船が解き放たれ、昼と夜を表す人が手を取り合っています。ポジティプにコロナ禍を乗り越えようとしているのが伝わります。「マイナンバー」は白い数字から絵の具がしたたる中、不満げな白いお化けがたたずんでいます。マイナンバー制度への漠然とした不安、もしくは住基ネットが亡霊となってしまったイメージを想起させます。

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「マイナンバー」2022 ©SHINGO KATORI   段ボールに描かれたラフな絵からは勢いとメッセージ性が感じられます。
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「Wink泥棒」2022 ©SHINGO KATORI    抽象画の色使いやワイルドなタッチにも香取慎吾の個性が表れています。

どの作品も足を止めてじっくり鑑賞したくなりますが、200点というボリュームなので時間があっという間に経っていきます。だいたいの展示はこれだけ量を観ると疲労感がありますが、不思議と香取慎吾の作品は大量に観ても疲れません。むしろ元気になってくるような…。長年トップアイドルとしてやってきて、お客さんのエネルギーをもらいながら自分からもエネルギーを出すという循環が、自然に成立しているように感じます。今の時代に合った持続可能な個展なのかもしれません。

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「想ふ」2021 ©SHINGO KATORI   日本人としてのわびさびの精神を感じさせる作品。こちらも段ボールにペイント。

WHO AM I -SHINGO KATORI ART JAPAN TOUR-

期間:~2023年1月22日(日)
休:2023年1月1日(日・祝)
時間:平日12:00~19:00(最終入場18:30)※金曜は20:00まで(最終入場19:30)
土曜11:00~20:00(最終入場19:30)
日・祝日 11:00~18:00(最終入場17:30)
※2022年12月28日(水)~2023年1月3日(火)は土曜と同じ開催時間

会場:渋谷ヒカリエ 9階 ヒカリエホール ホールA 東京都渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ9F
www.whoamitour.jp

※チケットは下記より確認してください。
https://www.whoamitour.jp/ticket.html
※開催日時などにつきましては、新型コロナウイルス感染症の状況により変更の可能性もあるので、公式HPなどでチェックしてください。

辛酸なめ子プロフィール画像
辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。

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