展示の公式サイトには、本人のコメントが掲載されています。「去年、2023年5月に北海道で吾郎さんと慎吾ちゃんとスタッフで食事をしたときに、僕のヴィンテージデニムの話で盛り上がりました。それからというもの、僕の頭の中にヴィンテージに対する愛と情熱が止めどなく溢れてきました。ヴィンテージデニムの世界はとても素晴らしく、毎日僕を楽しく愉快にさせてくれています。是非皆さんも、このグルーブに触れていただけると、楽しんでもらえるんじゃないかなぁと思っています」。
ヴィンテージデニム好きは男性が多い印象ですが、草彅剛ファンの多くを占める女性でもその世界にハマれるのでしょうか。そんな懸念も、会場に一歩足を踏み入れた瞬間にどこかへ行ってしまいました。
一階には草彅剛氏の私物のヴィンテージのハーレーダビッドソンのバイクが展示。本人がバイクに乗っているCOOLな写真も壁に飾られています。以前バラエティ番組ではエンジンからシートに引火したことがあると話していました。実物を見ると白いファーのシートがかわいいです。
壁には、展示のナビゲーターをつとめる、本人を思わせるキャラ「ツヨビス」、プレスリー似の「エルビス」、フレンチブルドッグの「シュガー」と「セサミ」が描かれていました。会場内の、POPで味のある絵の数々は、お友達のタトゥーアーティストによるものだそうです。バイク仲間とのツーリング姿などをはじめ草彅氏の知られざる一面や交友関係が明らかになっていきます。
ヴィンテージデニムの魅力について、本人が語った言葉があります。
「本物のスーパーヴィンテージには説明不要の唯一無二の輝きがあります。そして、たくさんの人々を魅了する魔力があります」。というのは、展示と共に発売された豪華な本『STAYBRAVE Vintage Levi’s501XX Collection』に収められたテキスト。初心者でも現物を見ることで、その魔力を体感できます。
展示フロアには、ガラスケースに収められたヴィンテージデニムが並んでいて圧巻です。専用の木製ケースがクラシカルで、博物館のような格調高さを感じます。84本のデニム、というより84本の物語、といった方が良いかもしれません。中には洗っていないデニムもあり、はいていた人の痕跡や残留思念を感じられます。
草彅氏は「その個体が持つエピソードを考えるのが好き」だとインタビューで語っていました。香取慎吾氏にヴィンテージデニムを紹介する動画では「これを着て鉄道とかを通してくれたわけよ」「ロマン感じるわけよ」と熱く語り、約100年前のデニムについた土の匂いをかいでいました。ヴィンテージデニムをはくと、演技で他の人格をまとうような感覚が得られるのかもしれません。純粋さや余白があるからこそ、他人の物語を受け入れられるのでしょう
昨今、デニムでもスニーカーでもヴィンテージ加工が人気ですが、やはり本物のダメージや色落ちの風合いはオーラが違います。一番古いデニムはなんと1901年、日本でいうと明治時代の一品。「当時の彼らがこのジーンズをはいて働いてくれたおかげで、道路もできたし鉄道を通すこともできたのかな」と説明パネルには書かれていて、思わず手を合わせたくなります。
会場は年代ごとにいくつかのセクションにわかれていて、デニムの歴史も学べます。初期のデニムは労働着だったので、ハードな仕事を感じさせるような汚れやシワが定着。「Okay God! Amazing! 気絶もんだぜ!! これは!!」と、ツヨビスの興奮気味のコメントが添えられています。デニムの前身頃の脚の付け根付近のシワのことを「ヒゲ」、膝裏あたりにできるハチノス状の色落ちを「ハチノス」と呼ぶ、というヴィンテージ用語を学びました。この日会場にいらした、『STAY BRAVE Vintage Levi’s 501XX Collection』の編集やデザインを手がけた古谷昭弘氏にもご教示いただきました。
1922年のデニムは、それまでサスペンダーで吊っていたのが、はじめてベルトループが付いたという大きな変化があり、ポケットの位置も少し下に移動します。
1937年には、お尻のポケットのところに「赤タブ」がつきました。「ワークウェアから街着の匂いが漂います。エポックメイキングなモデル。」と解説コメントが添えられています。赤タブといえばリーバイスのイメージです。
1942年は「大戦モデル」。第二次世界大戦中、物資が乏しい中、デザインも簡素化されました。「1942年頃は厳しく規制がかかっただワン!」と、犬のシュガーがコメント。おしりのポケットのカモメと呼ばれるラインが、糸を節約してペンキで描かれているとか、後ろ身頃の鋲が物資節約のため付けられていない、といった特徴が。草彅氏は大戦モデルをなんと17本も所有していて、世界的にも最大のコレクターではないかと言われています。
「数奇な運命を辿ったこのモデル、僕も30年間Levi's501を愛し続けているけど、いまだに衰えることのないヴィンテージ最高のアイコンだと思う。このモデルをはくと夢と希望と前向きなマインドが湧いてくるんだ。」という本人のコメントが展示。「オレが求めている、究極のボロの美学の向こう側なんだよ!」とツヨビスも熱く語ります。
大戦モデルを見ると、石炭なのか黒いすすで汚れていたり、激しいヒゲが刻まれていたり、過酷な作業に従事していたのが推測できます。でも、とくに致命的にボロボロになっていないことから、持ち主は戦争を生き抜いたのかもしれません。草彅氏が、はくと前向きになれる、というのは、運が強い、体力のある人がはいていたデニムだからかもしれません。
草彅氏が最も思い入れがあるのが「1946 MODEL」。「ワークと街着のエッセンスを秘めたバランスの王者。ジーンズの完成系と謳われ、現代でもこのモデルをベースに数々のクリエイションが重ねられるほどの傑作」と、わかりやすい説明が。素人目にもシルエットが洗練され、ポケットの位置も計算されている感じがします。
1953年は、「プレスリー、マーロン・ブランド、ジェームズ・ディーンなどのスーパースターたちが愛したアメリカの50年代を象徴するモデル。」だそうで、戦前、戦中のモデルと比べてインディゴブルーが濃くなっています。戦後、染料もふんだんに使えるようになったのでしょうか。アメリカの景気の良さが伺われます。この頃、大きな変化としてボタンからジッパーフライがつけられました。
1954-57年のデニムの歴史は、「紙パッチモデル」の登場。乾燥機に対応するため革パッチから紙パッチに変わったそうですが、水でボロボロになるという難点が。洗っていないものはきれいなまま残っています。草彅氏が18歳のときはじめて買ったのもこの時代のデニムだそうです。15万円だったそうですが、今は値上がりしていそうです。デニムはもしかして投資にもなるのでしょうか。
1967-74年モデルは、ヴィンテージの中でも新しい品です。「1974年オーナーkusanagiの生まれた年に生産された、といっても今じゃ立派なヴィンテージですね。50年前ですから」というコメントが添えられていました。一番最後に展示されていたのが74年モデルの中の、新品のままはかれていないデニム。つねにまっさらに、新鮮な気持ちを保ちたい、という思いを表しているようでした。50歳という年齢はヴィンテージの中ではヤングです。年を重ねることもヴィンテージ感が出る、という風にポジティブに捉えられます。草彅氏のポジティブさや若さの源泉に触れられる展示でした。
「STAY BRAVE」
会期:~ 2024年11月17日(日)
会場:6142(東京都渋谷区神宮前6-14-2)
開場時間:月~木曜、日曜 11:00~19:00/金曜 、土曜 11:00~20:00 ※最終入場時間は閉館30分前
https://staybrave.tokyo/