残り約一ヶ月になり、たくさんの人が訪れているDIC川村記念美術館。現在レストランは最終日まで満席のため、キャンセルが出たら、利用可能に。予約はマストです。
90年に開館してから長らくこの地で愛されてきた美術館が、2025年3月31日で休館するというニュースが駆け巡りました。休館前最後にロスコ・ルームや、 フランク・ステラの作品などを一目見たいという思いで訪問。東京駅から美術館に直行するバス乗り場には5、60人もの人が並んでいて、静かな熱気がうずまいていました。
広大な庭園には、季節ごとに桜、ツツジ、睡蓮、アジサイ、ヤマユリ、ハスなどが花を咲かせます。訪れた日はスイセンを発見。
ステンレススチールとアルミナブロンズを使って制作された、フランク・ステラの「リュネヴィル」はワイルドで迫力があります。
清水九兵衞「朱甲面」は、京都駅ビルの大階段でもおなじみの「朱甲舞」と同一の作者による野外彫刻作品。建築と引き立て合っています。
アリスティード・マイヨールのヴィーナス像が出迎えてくれるエントランス。「光の華」と名付けられた布製の天井装飾も見事です。photo:Osamu Watanabe
野外の彫刻作品を眺めがら、エントランスホールに足を踏み入れると、アリスティード・マイヨールの「ヴィーナス」が出迎えてくれました。下半身がどっしりとして親近感を抱かせられるヴィーナス像で、アートの世界に優しく誘ってくれます。
庭園で飼育している白鳥が遠目に確認できます。広い庭園で白鳥を目撃できたら幸運の予兆かもしれません。
まず、圧倒されるのは美しい庭園。池のほとりには、美術館で飼育されている2羽の白鳥がいて、早くも19〜20世紀の絵画の世界に入り込んだかのようです。
印象派などヨーロッパ近代絵画が中心の101展示室。モネやシャガール、ルノワールなどの名画をゆっくり観賞できます。
最初の部屋、101展示室には、ピサロ、モネ、ピカソ、ブラック、シャガール、ルノワール、藤田嗣治といった有名な芸術家たちの作品がひしめいていて、収集力とセンスに驚かされます。モネの「睡蓮」や、シャガールの「ダヴィデ王の夢」など、色の洪水に包まれる感覚が。顔料やインキの可能性を感じて、DIC株式会社の商品の販促効果も……? 学芸員さんのガイドツアーに参加させていただき、担当した方の思い入れを伺いました。この美術館で収集されている作品は、数ある中でも質が高いものが多い、と聞いて納得です。
「ピサロの『麦藁を積んだ荷馬車、モンフーコー』という作品は、モンフーコーという村を題材にした作品です。モンフーコーを描いた作品は日本に4点あり、そのうち1点がこちらです。ピサロはコローに心酔していて、一回助言してもらっただけで弟子を自称したらしいです」と、さすがの博識で、アート界の人間関係についても伺えました。
レンブラント・ファン・レインの「広つば帽を被った男」を展示するためだけの贅沢な部屋を通って奥に進むと、壁中にところ狭しと紙作品が張り巡らされた110展示室が現れます。版画、写真、ドローイングが展示。今回は全体で約180点もの所蔵作品が展示されていて、中にはこれまで展示されなかった秘蔵の作品もあるそうです。
平面作品の量に圧倒される充実の110展示室。気になる作品をチェックしてから、ダウンロードできるリストと照らし合わせるのも楽しいです。
110展示室にも、クリストやピカソ、ロイ・リキテンスタイン、赤瀬川原平、ウォーホル、フンデルトヴァッサー、ミロ、マン・レイなどのメジャーな芸術家の平面作品が高密度で並んでいます。でも、色のトーンで並べているからか、統一感がありました。様々な作品があるので新たなアートとの出合いもあります。好きな作品の番号を言い合うカップルの姿も。奇妙で独特な世界観のゾンネンシュターンという作家も気になりました。
学芸員さんによると、まず床に仮で作品を並べて配置を決めたそうで、かなり大変な作業だったとか。
ジョゼフ・コーネルの作品を17点も所蔵しているDIC川村記念美術館。今回の展示では箱の作品もたくさん並んでいてファン必見です。
続いてグレーの空間の104展示室には、主にダダ、シュルレアリスムの作品が展示されています。薄暗い部屋で、自分の無意識とシュルレアリスムの作品が潜在意識でつながったような感覚が。目隠しして樹につかまっている女性がドアに描かれたマックス・エルンストの立体作品が目を引きます。黒い便器の中に卵の絵が描かれたマン・レイの作品や、白いオブジェ2体が対話するマグリットの絵画など、AI全盛の今、手描きでエモいシュルレアリスムに不思議と癒されました。
小さい展示室、105展示室には「箱のアーティスト」ジョゼフ・コーネルの美しく詩的な箱作品とコラージュ作品が並んでいます。コーネルはファンが多いので、これまでのコレクション展示でも少しずつ展示されていたそうですが、17つもの作品が並ぶことはめったにないとのこと。コーネルと親しかった草間彌生先生にも見てもらいたい小部屋です。
左右の大きなガラス窓が特徴的な200展示室。当初はバーネット・ニューマンの「アンナの光」という真っ赤な絵画を展示するために設計されました。photo:Manami Takahashi
目玉の一つである106展示室のロスコ・ルームに行く前に、何も展示されていない200展示室へ。かつてバーネット・ニューマンの絵画などが展示されていたそうですが、作品がなくなって、最後、この空間をニューマンに返そう、という意味で何も展示しないことにしたそうです。両側の窓からは森林が見えて、自然を感じながら美術館の思い出に浸ることができます。以前、この部屋は明るすぎたため、窓の外に植林して少し暗くした、というスケールの大きいエピソードも伺えました。私立美術館は発想が自由で大胆です。
フランク・ステラのダイナミックな大型作品が集結。既成概念をくつがえしてきたアーティストの作品が並ぶ空間で、感性が刺激されます。
201展示室は、フランク・ステラの大型の作品が並んでいます。3代目の社長がステラの作品が気に入ってコレクションしていたそうですが、インキや顔料を扱う会社なので、ステラの作品の鮮やかな色使いに惹かれたのかもしれません。作家とコレクターの理想的な蜜月関係から、ポジティブなエネルギーを吸収。
202展示室の中で重要なのはジャクソン・ポロックの「緑、黒、黄褐色のコンポジション」。3代目社長がNYに出張に行ったときに見つけて、ポンと買ってきた、という逸話が。この作品を購入した実績から、NYのギャラリーから次々と前衛的な現代アーティスト作品を紹介してもらえるようになったという、契機の作品。ポロックの飛び散る絵の具には、運命を切り開く勢いがあります。
ネオダダからミニマリズム、日本の現代へつながる作品が展示されている203展示室。ジャスパー・ジョーンズ、サイ・トゥオンブリーなど海外の重要な現代美術作家の作品も。
正方形の大型展示室203展示室は、部屋の中に大きな箱を設営。上に乗っている猫の像の作品、アン・アーノルドの「ラム・タム」に癒されます。ジャスパー・ジョーンズ、サイ・トゥオンブリー、ジョージ・シーガルなどの実験的な作品も並んでいて、現代アートの魅力に浸れる空間。
どの部屋も、作品の良さを最大限に生かすような構成で、作品も美術館も喜んでいるような幸せな空気が漂っていました。これから形態は変わっても、大切にされた作品に宿った幸せなエネルギーは、ずっと残っていくことでしょう。DIC川村記念美術館は、本当の豊かさを教えてくれました。訪れた人の心の中にアートの部屋ができて、いつでもアクセスできるようになりそうで、インナーDIC川村記念美術館は不滅です。
敷地内には軽い運動になりそうな丘もありました。心身ともに健康になれる施設です。
DIC川村記念美術館 1990–2025 作品、建築、自然
期間:~2025年3月31日(月)
時間:09:30~17:00 (入館は30分前まで)
休:月曜(3月31日は開館)
会場:DIC川村記念美術館
千葉県佐倉市坂戸631
https://kawamura-museum.dic.co.jp/