心と体を充電できるパワースポット的な【大阪・関西万博】パビリオン 。ミケランジェロ、カラヴァッジョなどの大作が間近で見れます! 【イタリア】【インド】【アメリカ】【フランス】 #113

160以上の国と地域、国際機関が参加し、84棟ものパビリオンがひしめく、大阪・関西万博。なかなか行けない国の文化を体感できると思うと、大阪までの距離も近いと思えてきます。開幕してから来場者数は増加傾向で、このところは日々10万人以上も訪れているようです。各パビリオンはかなり待ち時間が長くなっていて、予約も数に限りがあるため、行く場所を厳選する必要があります。今回、取材させていただいたパビリオンは、評価や話題性が高く、「万博 おすすめパビリオン」で検索すると上位に入ってくるところばかりです。万博の思い出が後世まで脳に刻まれそうな、印象的なパビリオンを紹介させていただきます。

インドパビリオン

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世の人々が工事の推移を見守り続け、ついに完成したパビリオンの外観。暗くなると、屋上に映像が投影されるようです。

開幕から2週間ほど遅れて開館したインドパビリオン。工事中は進捗を見守る人たちが「今日のインド館」というハッシュタグで投稿するほど注目度が高かったです。ついに5月1日にオープンしたインドパビリオンに伺いました。インドから集められた古代からの国名「バーラト」のカタカナの看板が目立っていて、蓮の花を模した外観や、合掌する手のオブジェなど、霊性高い系パビリオンであることが伝わってきます。

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インドパビリオンの、邸宅のリビングのような展示空間。リラックスして美術鑑賞できます。

館内に入ると、インテリアの中にインドの宝物や芸術品がさり気なく展示されていました。紀元前3000年から1500年まで栄えていたインダス文明の頃に作られた「踊る少女」の像など、インド5000年の悠久の歴史を感じさせます。インドの最新技術を使って採掘された海底鉱物も展示されていて、珠玉のパワーストーンの輝きを放っていました。土の器やクオリティーの高い布製品などの名産品も展示。買いたくなってもショップがないのがちょっと残念です。2023年に月面着陸に成功した「チャンドラヤーン3号」のレプリカや、インド版新幹線、ヴァンデ・バーラト急行や橋の模型なども並んでいて、空、陸、海を網羅するインドの勢いに圧倒されました。(ヴァンデ・バーラト急行には乗ったことがあり、かなり快適だったことを思い出しました) ここまで内容を充実させるため開館が遅れたのも納得です。

インドパビリオンはテイクアウトでカレーやラッシーを買うこともできます。他の国のパビリオン内のレストランに比べるとそこまで長時間並ばないので、時間を節約したいときに良さそうです。

イタリアパビリオン

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イタリアの都市文化を象徴する劇場や、ポルティコ(列柱廊)の要素を取り入れた、モダンでクラシックなイタリアパビリオン。屋上庭園も素敵です。

大阪・関西万博の中でも一番人気と目されるのがイタリアパビリオン。イタリア屈指の芸術品、しかもレプリカではない本物が多数展示されていて、イタリアの芸術への思い入れと、ホスピタリティに感動させられます。

ルネサンス期の劇場にインスパイアされた建物の外観も素晴らしく洗練されていて、並びながらも期待が高まります。入り口手前の一部エリアは週替わりの展示で、毎回一つの州をテーマにしています。また、内部には「バチカンパビリオン」も設置されています。

来場者はまず、小さいホールに案内されてイタリアについての短い映像を見るという流れに。見終わった瞬間、広い展示フロアの扉が開く演出にどよめきが起こっていました。人流の制御にもなっていて考え尽くされています。

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西暦2世紀頃に制作された「ファルネーゼのアトラス」。力強い男性像が表現されているとともに、後世の科学者たちの重要な資料になっています。この時代に春分点、赤道、黄道、子午線が認識されていることにも驚かされます。

奥には、古代ローマの大理石の彫刻「ファルネーゼのアトラス」が宇宙を表す天球儀を担いでいます。ナポリ国立考古学博物館から遠路はるばる来てくださいました。そして、奥には、レオナルド・ダ・ヴィンチの残留思念が感じられる直筆のスケッチも。国宝級の芸術を間近で見ることができます。内装も、BGMも、全てにおいてセンスが良く、圧倒されます。

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ドメニコ・ティントレットによって描かれた「伊東マンショの肖像」。16世紀後半、天正遣欧少年使節の1人として、ローマに渡りました。

まず、出迎えてくれたのは日本とイタリアの架け橋にもなった「伊東マンショの肖像」。薄くヒゲを生やしていますが、少年っぽさを残したあどけない顔立ちで、もしかして元祖アイドルのような存在でもあったのでは?と妄想。

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イタリアの現代の彫刻家、Jagoの「循環器系」は、陶器の心臓32個で鼓動を表現しています。撮影し、コマ送りしたら心臓が鼓動している映像に。

古の名作だけでなく、現代アーティストの作品もバランス良く展示。イタリアの現代の彫刻家、Jago(ヤボ)の「循環器系」という作品は、少しずつ形を変えた陶器製の32個の心臓が並んでいて、一つずつ撮影してコマ送りすると鼓動の動きが再現される、という深遠な作品。瞬間が永遠につながっているという、まさに持続可能な作品。イタリアパビリオンのテーマは「芸術は命を再生する」ですが、万博会場で、たくさん歩いて並んで疲労したあと、イタリアパビリオンの感動で命が再生した感覚がありました。

「本物を見ることで、当時の天才が何をやっていたのかがわかり、インスピレーションが得られます」と、広報の女性も語っていましたが、生気や鋭気が養われる展示空間です。

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「キリストの埋葬」は、キリストの遺体の周りで、聖母マリア、ヨハネ、ニコデモ、クレオパのマリア、マグダラのマリアが悲嘆にくれている図。3人も重要な「マリア」がいたようです。

バチカンパビリオンでは、カラヴァッジョの名画「キリストの埋葬」を展示。キリストが十字架から降ろされて墓石の上に置かれる瞬間が描かれています。生気のないキリストと、悲しむ人々の姿に、シリアスな気持ちになりますが、そのあと会場内に新しく加わった、ミケランジェロの彫刻「キリストの復活」では、キリストが元気に生き返っていました。まさに、このパビリオンのテーマを体現しているよう。芸術は、何度でも命を再生するのです。

イタリアパビリオンのイタリア政府代表マリオ・ヴァッターニ氏へのメールインタビュー

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イタリアパビリオンの感動の余韻の中、大阪・関西万博イタリア政府代表マリオ・ヴァッターニ氏に、メールでインタビューさせていただく光栄に預かりました。以下にその内容を掲載いたします。

Q 大阪・関西万博で最も人気の高いパビリオンとなりました。その高い評価を聞いた際、どのような感想を持たれましたか?

私たちは日本国内外の皆さまから示された並外れたご関心に対し、深く感謝し、光栄に存じます。同時にこの成功は私たちの責任感を一層強くしました。大阪で私たちが取り組んでいることは、単なる文化の代表を超え、経済外交と戦略的なストーリーテリングです。パビリオンは、伝統と革新が調和するイタリアの姿をアジアに紹介し、その認識を高めるために設計されています。

来場者がパビリオンに入ると目に飛び込んでくるのは、「ファルネーゼのアトラス」、カラヴァッジョ、ミケランジェロのような名作だけではありません。芸術の天才、工学の精度、科学の洞察が融合した「本物のイタリア」つまり日本語で言う「ホンモノ」と出会います。イタリアにおいてアートは静止した鑑賞の対象ではありません。それは発明であり、デザインであり、知識です。このため最初の1ヶ月間で、この未来のビジョンを共有するイタリアと日本の企業120社以上が、80を超えるイベントを通じて集結しました。


Q ミケランジェロのキリスト像、カラヴァッジョの絵画、そしてファルネーゼの「アトラス」は、すべて貴重な素晴らしい作品として展示されています。これらの作品はどのように選ばれたのでしょうか?

各作品は、歴史的または美学的価値だけでなく、発見の物語、変革の物語、人間の動きの物語を伝えるという視点から選ばれました。この作品は当パビリオンとエキスポそのものの中心テーマである「旅の物語/イル・ヴィアッジョ」を構成しています。「ファルネーゼのアトラス」に表現された天体の知識から、カラヴァッジョの「キリストの埋葬」の迫力、ミケランジェロの「復活のキリスト」の内省的な優美さに至るまで、一連の作品は芸術が社会を問いかけ、照らし出し、再生する能力を物語っています。このパビリオンにおいて作品は孤立したアイコンとしてではなく、過去と未来を結びつける意味の生きているシステムの一部として配置されています。そしてこの未来は、美、倫理、そして人間の中心性を軸にデザインされなければならないと我々は信じています。

Q SDGsに関連するパビリオンは数多くありますが、このパビリオンはアートを推進している点で独自の魅力を持っていますね。

その通りです。それは意図的なものです。イタリアの今回の国際博覧会への貢献は、持続可能性が単なる数値指標に還元できないという考えに基づいています。文化的転換なしに、生態学的転換は実現しません。
このパビリオンは美しさを通じて持続可能性を表現し、社会再生の核心にアートを据えています。建築にもこの理念が反映されています。全体構造は日本国内から調達された杉とスプルースを使用し、PEFC認証を取得したラミネート木材で構成されています。これは単に環境負荷が低いだけでなく、美しい。そして美しさはケア、注意、責任を促します。これが私たちのメッセージです。イノベーションは持続可能でなければならないし、持続可能性は人間中心でなければなりません。
 
Q 当初の計画からアートをメインに展示する予定でしたか?

もちろんです。パビリオンのテーマは「芸術は生命を再生する」であり、この理念が我々のすべての活動の指針となっています。イタリアではアートは美術館に限定されず至る所に存在しています。工学、職人技、デザイン、風景、そして食文化にまで及んでいます。それは我々の思考と創造の仕方そのものです。これがレオナルドやミケランジェロのようなルネサンスの巨匠たちと共に、現代のイタリア人アーティスト、ミンモ・パラディーノ、イヤゴ、オリアナ・ペルシコ、マテオ・チェッカリーニ、フランチェスカ・レオーネを紹介する理由です。彼らの作品は、現代の世界が抱える不安と希望を反映しています。ラツィオ州が持ち込んだミケランジェロの『キリストの復活』の到着も、バサーノ・ロマーノのような小さな町から来ています。なぜなら、イタリアでは最も隠れた場所にも世界的な宝物が存在するからです。そしてこれもまた、イタリアの国民性の本質の一部です。

Q 日本とイタリアを結ぶ人物として、伊東マンショ(満所)の肖像画を実際に目にするのは貴重な経験です。イタリア人は伊東マンショをどのような人物として捉えているのでしょうか?

伊東マンショのストーリーは、二国間に共有された物語の一部であり、驚き、尊敬、そして対話の話です。ドメニコ・ティントレットによって製作された肖像画は、グローバル化以前に、日本とイタリアの間には既に好奇心と友情が存在していたことを私たちに思い起こさせます。
歴史的な橋はこのパビリオンにも反映されています。1920年アルトゥーロ・フェラリンがローマから東京へ飛行するために使い、再建されたSVA 9双発機も展示されています。これもまたビジョンと勇気の旅です。ハンガー・フジーナの職人によって丹精込めて建造された機体は、イタリアの航空工学の傑作であり、夢の背後に隠れた構造を露わにするために、原型のまま展示されています。
この海と空の二つの旅は、私たちの関係の象徴的な軸を成しています。これらを通じて、私たちは過去を称えるだけでなく、イタリアと日本が共に未来を築くための非凡な可能性を称えています。

アメリカパビリオン

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日本館の「火星の石」も話題ですが、アメリカパビリオンではアポロ17号が月面で採取した「月の石」を拝むことができます。でも、見どころはそれだけではありません。列に並びながら、パビリオン前のステージで繰り広げられるジャズなどのライブを観賞。待ち時間が苦にならない粋な演出です。

館内に入ると、まぶしいくらいの陽キャのMCの女性の案内で導入の映像を観賞し、目玉のロケット打ち上げ体験へ。大型スクリーンに囲まれ、天井にはロケットの噴射口が見えます。打ち上がるときはオレンジの煙が発せられ、不思議と熱気まで感じました。

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周囲をモニターに囲まれた空間で、NASAのロケットの打ち上げを疑似体験。星雲の美しさに、万博疲れも吹き飛びます。

皆を乗せたロケットは小惑星帯を抜けて、月や火星、木星などをかすめながら、幻想的に美しい星雲へ……と、宇宙を旅しているような、めくるめく疑似体験ができます。そして宇宙の中に、希望の星である、学生や研究者、スポーツ選手といった人々の姿が現れるのですが、そこには日本が誇る大谷翔平選手の姿も! 日本とアメリカをつなぐスターの姿に、テンションも打ち上がります。

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列に並びながら一枚だけ撮影が許された「月の石」。何十年後かの万博でもまたこの石を拝むことができるのでしょうか?

会場の最後に「月の石」が展示。厳かにケースにおさめられた薄い石を、一瞬だけ拝見することができました。一見ふつうの地味な石ですが、実は特別なヴァイブスを宿している星のかけらなのです。人間も同じく、自覚し、自分を磨くことで、誰もがスターのように輝く特別な存在になれると教えられたようです。

フランスパビリオン

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ロダンの手の彫刻「カテドラル」を囲むように、大量のトランクが天井まで並んでいます。トランクの中に入ったら異空間にワープできそうです。

フランスパビリオンのメインパートナーはLVMH。建築家の重松象平が手がけた空間は壮麗で圧巻です。ルイ・ヴィトンのトランク、85個が天井まで積み上げられています。白く発光したトランクの内部には、ルイ・ヴィトンの職人の手仕事が映し出されています。その職人たちの手と呼応するように、館内にはオーギュスト・ロダンの手の彫刻が展示されていました。人間の手の無限の可能性を感じます。

ロダンの作品は各展示室にあり、フランス館も本物の芸術作品を多数展示しているという事実に感動。

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五感が刺激される作品、「トランクのスフィア」。モノグラムが投影された瞬間、高級感が炸裂し、スマホで撮影する人が続出。

白いトランクが球体状になった「トランクのスフィア」には、アーティスト真鍋大度による映像作品が投影。惑星のように回転し、動いている球体に、宇宙や海底などのプロジェクションマッピングや、ヴィトンのモノグラム・モチーフが映し出され、一瞬も見逃せない映えの連続でした。

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ディオールの白いトワル約400点が天井まで並ぶインスタレーション。一つ一つの完成度の高さにも驚かされます。

ディオールのデザインを立体的に表現した約400点の白いトワルのインスタレーションも美しく見応えがありました。また、アルザス地方の地中に包まれたような空間で、甘美なワインを体感するインスタレーション作品もあり、フランスパビリオンは優雅でラグジュアリーで、雲の上の豊かさを表現しているようです。フランスパビリオンのテーマは「愛の讃歌」ですが、「愛とアルザスワインほど悩みを忘れさせてくれるのに良い方法はない」という格言も掲示されていました。ロダンの愛を感じさせる彫刻と、高級感あふれるハイブランドの競演、さらにワインの陶酔感に包まれて、至高の世界に現実逃避できるパビリオンです。

今、円安などで海外は遠い存在になってしまいましたが、大阪・関西万博は、世界各国が来てくれている、というありがたいシチュエーションです。その国々の一流のクリエイターによるコンテンツや、最高の芸術作品に触れられるまたとないチャンスでもあります。
広大な万博会場を一日歩き回るのは過酷ですが、紹介させていただいたパビリオンはどこもパワースポットなので、疲れても充電し、また歩きだす力をもらえることでしょう。

2025年日本国際博覧会( 大阪・関西万博)
期間:~2025年10月13日(月・祝)
時間:09:00~22:00
会場:大阪 夢洲
https://www.expo2025.or.jp/

辛酸なめ子プロフィール画像
辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデ ザイン専攻卒業。アートやアイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。主な著作は『江戸時代のオタクファイル』(淡交社)『女子校礼讃 』(中央公論新社)『スピリチュアル系のトリセツ』(平凡社)など多数。Twitterは@godblessnamekoです。

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